小説(銀魂・parallel)

□好きだということ
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俺の家に十四郎が来て早1週間。
十四郎もだいぶ慣れてきたみたいなんだけどさ・・・
ここのところ十四郎は微熱が続いていた。
本人は“大丈夫です”と言っているけど、たまに辛そうな顔をしている。
俺は近藤さんたちが今日来ると言っていたのを思い出し、診てもらおうと思っていた。


10時ごろインターフォンが鳴り、待ち望んでいた近藤さんたちがやってきた。
出迎えに行こうとする十四郎を部屋に残し、俺が出迎える。

「こんにちは。愛玩人形の調子はどうですか?」
「ども、あの十四郎ちょっと熱があるんです。診てもらえませんか?」

分かりましたと近藤さんたちは俺の家に上がる。
近藤さんは部屋でおとなしくしている十四郎を見つけると、おでこに手をあてて熱の有無を確認する。
沖田さんはパソコンを立ち上げていた。
そこにはよくスーパーのレジにある、バーコードを読み取る機械のようなものがくっついていた。
十四郎は近藤さんに連れられ、沖田さんの近くに座らされる。
沖田さんは機械で十四郎の首もとのバーコードを読み取り、パソコンの画面を確認する。

「確かに熱がありやす、原因は疲れですかねぇ。家に仕えたばかりのころは気疲れなどで熱出しちゃう子がたまにいるんですよ」
「はぁ。じゃあ熱はすぐ下がるんですか?」
「いや、なかなか下がらない可能性があります。たしかこの子普段熱は出さないのですが、いったん出ると1週間ぐらいは下がらないんですよ」
「どうしやすか?会社の方で面倒見るってこともできやすけど」

俺は十四郎をこのまま家に置いていても平日の昼間は面倒見られないし、なにしろ十四郎が俺の言うことを聞かず働きそうな気がしたので、

「お願いしてもいいですか?」

と結局、俺は会社の好意に甘えることにした。

「分かりました。では、大切に預からせてもらいます」
「あ、これに答えておいてもらえますかねぇ?今日はこれが本来の目的だったんで」

沖田さんに渡された紙はまたアンケート用紙だった。

「十四郎をよろしくお願いします。・・・十四郎ゆっくり休んできてね」
「はい。迷惑かけてごめんなさい」

別に大丈夫だよと伝えるために、俺は十四郎の
頭を撫でてやる。
十四郎は歩くのもふらふらしていたので、近藤さんにおぶわれて連れて行かれた。


部屋に戻るとやけにそこが静かなように感じた。
十四郎がいなかった日々に戻っただけなのに。
ひとまずさっき渡されたアンケートに答えることにした。
アンケートは愛玩人形に満足しているかどうかを聞く内容だった。

「最初は名前か、十四郎っと・・・固体番号は、えっと“C-1046”だっけ」

黙々と俺はアンケートに答えていく。
“愛玩人形はあなたの命令に忠実に従いますか?”
“愛玩人形は家事をきちんとこなしますか?”
“愛玩人形は一度注意されたことはもうしませんか?”
“愛玩人形に不満はありますか?”

「不満ねぇ・・・しいて挙げるとすれば素の自分を見せてくれないことぐらいか」

アンケートに答えるたびに俺の答えが会社側の求めているような答えではないことだなと感じた。
だがこれが俺の意見なんだからしょうがない。
一通り書き終えると、再びインターフォンが鳴る。
近藤さんたちが忘れ物でもしたのかと思ってドアを開けると、そこには十四郎よりも小柄な男の子が立っていた。
まず目をひくのは黒髪から覗く大きなウサギ耳。
正面からは見えないが、お尻のあたりにはどうせモコモコのしっぽがはえているのだろう。

「十四郎さんがいらっしゃらない間、俺があなたの代理愛玩人形となります」

元気よく挨拶し、俺ににっこり笑いかける。
純粋なその笑顔は天使みたいでかわいらしかった。


「俺は“R-3210”、退ってお呼び下さい」
そういって深々とお辞儀する。
俺は彼にお茶をだし、彼の前に座った。

「えっと、退くんはどういう理由で来たのかな?」
「愛玩人形をお預かりしている間、別の愛玩人形でカバーするサービスがあるんです。ですから俺になんなりとご命令下さい」

再びニコッと笑いかけてくる彼を見て、俺は用意周到な会社だなと感心する。
退と名乗るウサギの愛玩人形は十四郎よりも若そうだった。
垂れがちな目や毛先がくるんとなっている髪、ぷにぷにのほっぺたが幼い印象を与え、俺には14、5歳ぐらいに見えた。
ちょっと高めのボーイソプラノがよりかわいらしさを強調していた。

「退くんにはご主人様はいないの?」
「俺のご主人様は万斉様という方です。万斉様は宣伝部で働いているのですけど、俺お手伝いがしたくて代理愛玩人形の仕事をしているんです」
「ふ〜ん。他の主人に仕えるのは嫌じゃないの?」
「本命は万斉様なので大丈夫です。それに万斉様が俺のことを必要としてくれていますので、それに応えないわけにはいきません」

明るくはきはきと話す彼からはその万斉という人を好いている気持ちがよく伝わってきた。
退くんが自分のことをはっきり話してくれることからも大事に飼われていることが分かる。

「これを見るかぎり、銀時様が優しいご主人様みたいで良かったです。こんな話し方をしても怒らないでくれますし。酷い人にあたったときは、飼われている愛玩人形に同情しちゃいますよ」

退くんはさっき書いていたアンケートを見ていた。

「あ、十四郎さんが銀時様のことをすてきなご主人様だと言っていましたよ」
「へぇ、嬉しいな。って十四郎のこと知ってるの?」
「はい。会社にいた頃は同じ部屋で生活していましたから。先ほど会社を出てくるときにも少し話してきました」

同部屋ということは十四郎のことをよく知っているのだろうか。
会話をしてきたということは仲が良いということだろう。
十四郎に友達がいたみたいで、少し安心する。

「あの十四郎さん銀時様は自分のこと好きじゃないのかもって不安がっていましたよ?」
「え、なんで?俺けっこう十四郎に愛情注いでいたと思うんだけど」
「まだ一度も俺とエッチしてくれないって言っていました。銀時様は十四郎さんのこと好きなんですよね?」

その一言に俺は驚愕する。
十四郎ってそういう風に思っていたわけ!?
だから一緒に寝てるとき身体を摺り寄せてきてたんだ。
俺はてっきり寒いからだとばかり思っていたよ。

「それは好きだけど、俺は家族として好きっていうか・・・」
「そうなんですか。えと、じゃあなんでキスしたんですか?」

そんなことまで十四郎は話したのか。

「あのときはちょっとテンションが上がっちゃって・・・」

十四郎が来て2日目の日、俺は一時のノリでキスしてしまったのだ。
後悔はしていないけどそれが十四郎の不安の原因になってしまったようで悪いことをしたと自覚する。

「そんな適当な気持ちでキスしちゃダメですよ!!」
「・・・すいません」

退くんの一言が俺に重く突き刺さる。
確かに軽率な行動だった。

「十四郎さんのこと本当に好きにはならないんですか?」
「分かんないよ。ただ十四郎とはずっと一緒にいたいと思ってる」
「それって好きってことじゃないんですか?」

退くんはじっと目を見つめる。
見つめられた俺は退くんの目が必死な色をしていることに気付いた。

「俺さ、好きって感情がよく分かんないんだよ。愛されるってことが今まであんまりなかったから」

俺は退くんの目を直視できなかった。
目をそらす俺に退くんはぐいっと顔を近づける。

「銀時様は十四郎さんに十分愛されていますよ!!」
「そう言ってくれるのはありがたいけどさ、退くんはなんで俺たちのことなのにそんなに必死になってくれるの?」
「・・・十四郎さん、やっと、やっとご主人様が見つかったんです!なかなか相性合う人がいなくて、もう無理だってあきらめかけていたときに銀時様が見つかったんです。それでこんなに優しい人だったから、十四郎さんには幸せになってほしいなって思って」

スンと鼻を鳴らしながら語る退の目には涙が浮かんでいた。

「十四郎のこといっぱい思ってくれてありがとな」

俺は退くんの目からこぼれ落ちそうになっている雫を指で掬い、十四郎にいつもやってあげるように頭を撫でた。

「十四郎さんが出かけるときもそうやって頭を撫でてあげたんですよね・・・」

退くんは寂しそうにそう言うと俺から離れる。
そのまま下を向き、肩を震わせていた。

「あ、そうだ!」

突然バッと顔を上げるとさきほどまでの泣き顔はどこへやら、すっかり笑顔に戻っていた。

「銀時様俺とエッチしましょう!!」

彼は高らかにそう言い放った。


「ちょっ、退くん!!」

俺の大事なところに手を伸ばそうとする退くんを必死に止める。
退くんは意地になって俺に抵抗してくる。
退くん曰く“もし十四郎のことを恋人として好きだったら自分とはエッチできないはずだから、試しにエッチしてみましょう”ってことらしい。
だからって退くんに相手してもらうのはなんか違う気がするし、そんな理由で退くんを抱くのは悪い気がした。

「だってほら退くんにはご主人様がいるんでしょ?」
「代理愛玩人形をしているときに別のご主人様の相手をしたことがありますし、万斉様にも許可をもらっています。愛玩人形は性欲処理のお手伝いもするものですから、どうぞお気遣いなく」

退くんは俺のズボンのチャックを下げると、下着をくつろげ、俺自身を取り出す。
俺はなんとなくだけど、退くんにされるのを嫌だと感じた。
退くんのことを嫌っているわけではないのに。
そのまま舌を這わせようとする退くんを引き離そうとしているとき、ふいに俺の脳内に十四郎がよぎった。
揺れる黒髪のせいかだんだん目の前の退くんが十四郎のような気がしてきた。

(そうか・・・俺は・・・)

さっきまでのもやもやしていた俺の心がすっと晴れ渡る。
俺は十四郎のことが好きだったんだ。
十四郎が一緒にいるだけで嬉しかったのも、十四郎の笑顔が見たいって思っていたのも、それは全部十四郎のことを好いていたから。
十四郎のことを考えると自然と顔がほころぶ、これが好きってことなんだ。

「待って」

ウサギ耳に触ってそう言うと退くんは動きを止め、俺のほうを見る。
俺の声音が変わったことに気が付いたみたいだ。

「俺十四郎のこと好きだわ。そういうことは十四郎にだけして欲しいって今思ったんだ・・・分からせてくれてありがとうな」
「っ!!・・・はいっ」

自分の思い通りにいったとばかりに退くんは大喜びしていた。

(負けたよ・・・)

俺は退くんにいいように動かされたような気がして多少くやしいけど、好きという感情を知ることができて良かったと思う。
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