小説(銀魂・parallel)

□愛玩〜LOVE TOY〜
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ピンポン、ピンポン、ピンポン
なぜだかめっちゃ連打で玄関のインターフォンが鳴らされていた。
俺はさすがに近所迷惑になると思い、渋々ベッドから起き上がる。
時刻を確認するとまだ8時だった。

「日曜日なんだから、もう少し寝させてくれよなぁ」

寝起きで髪はさらにボサボサしていたけど、気にせずドアを開けた。

「はい、何の用ですか?」

玄関には宅配便風の格好をした男性が2人立っていた。
1人はがっしりとした体躯のゴリラを彷彿させるような大男で、もう1人は幼さを残しているがアイドルみたいな顔をした優男だった。
何か頼んでいたっけと考えていると、大男のほうが話し出した。

「おめでとうございます。あなたはアンケートの結果により、わが社の新製品のモニターに選ばれました」

声高々にそう言われたが、俺にはそもそもアンケートに答えた記憶がない。

「あの人違いじゃないですか?何か答えましたっけ?」
「あんたは坂田銀時さん、28歳会社員ですよね?先日街頭アンケートにお答えになられたはずですが」

優男に言われ、なんとなく記憶がよみがえってきた。
確か買い物がてら歩いているとアンケートを頼まれ、暇だったから答えてあげたのだ。
そのときにすでにお礼として商品券をもらったような気がする。

「で、あの、その新製品って?」

サプリメントなど食品系ならまだこっちとしても助かるんだけどなとか考えていると、俺の目の前にあるものが差し出された。
その差し出されたものは俺の予想を遥かに越えるものだった。

「こちらです!!わが社が自信を持ってお送りする“愛玩人形”です!!」

宅配便風の男たちの後ろから現れたのは、17、8歳ぐらいの男の子だった。
頭には黒い大きな猫耳がつき、お尻のあたりからは毛並みのいいしっぽがはえていた。
白のTシャツとズボンを着ていて、俺の前に出されると軽くお辞儀をする。
彼の髪は光の加減で深緑っぽく見える艶やかな黒髪だった。
顔立ちもとても整っており、すっとした鼻にふっくらと膨らんでいる唇、黒曜石のようにきらきら光る目を持っていた。
俺は彼らの言う“愛玩人形”の意味がよく分からなかったので、中でいろいろ説明してもらうことにした。


俺と宅配便風の男たちがローテーブルを挟んで向かい合って座る。
どうしていいか分からず、俺はとりあえずお茶を出しておく。

「あ、すいません。まずは名刺をどうぞ」

差し出された名刺により、大男のほうが近藤勲、優男のほうが沖田総悟という名前であることが分かった。
会社名も載っていたが、そこには日本人なら知らない人がいないというくらい超有名な会社の名前が載っていた。
ただその会社がこんな商品を扱っているとは知らなかった。
件の猫耳少年は一言も喋らず、2人の男の間に行儀よく座っていた。

「その愛玩人形とは一体何なんですか?」
「まぁ簡単に言うとお手伝いさんですね。炊事、洗濯など家事全般してくれますし、主人であるあなたの命令は何でも聞いてくれます」
「はぁ・・・えっと、この子は人間なんですか?」
「人間にとても近い生き物だと考えてくだせぇ。申し訳ありやせんが、詳しいことは企業秘
密なのでお答えできねぇんでさぁ」

この不思議な猫耳少年をじっと見てみると、とてもきめ細やかな肌をしていて、触るとすべすべして気持ちよさそうだった。
ただ彼はずっと下を向いていたため、その表情を読み取ることはできなかった。

「坂田さんが選ばれた理由はアンケートの結果
から相性が良かったからです」
「相性?」
「ええ、この子にも性格というものが存在していますので」

“それに”と沖田さんはにやりとした顔で近藤さんの発言に続いて言う。

「性欲処理の道具としても使えるので、身体の相性も良くないと」
「はい?この子男の子ですよね?俺も男なんですけど!!」
「大丈夫です。男相手でも気持ちよくさせられるようにきちんと仕込んでありやすから」

沖田さんはにっこり笑いながら猫耳少年の肩に触れるが、逆にその仕草が恐かった。
俺はモニターするのがだんだん嫌になってきた。

「あの、俺けっこうです。モニターを辞退させて頂けませんか?」

その言葉に猫耳少年はびくりと体を揺らし、膝の上に置かれていた両方の手が硬く結ばれる。

「それはできませんねぇ。確かアンケートの注意事項にそう書いてあったはずですぜ」

沖田さんは鞄の中から1枚の紙を取り出すと、テーブルの上に置いた。
それは俺が答えたアンケート用紙のコピーだった。
用紙の下のほうには小さな字であったが、“アンケートの結果によりモニターに選ばれた際は辞退できませんのでご注意下さい”と書いてあった。

「では、他に質問がないのであれば、我々はこれで。1週間後にまた様子を見にきますので」

立ち上がって帰り支度をする2人に俺は慌てて質問する。

「モニターっていつまでなんですか?」
「坂田さんが飽きるまでどうぞ。その期間も調査に入っていますので」
「ご飯とかは?」
「基本的に人間と同じですねぇ。この子の食費等の生活費は指定した口座に毎月振り込んでおきますのでご自由に使って下せぇ」
「これが一応取り扱い説明書になります。困ったことがあればここに載っている番号にお電話下さい。・・・では、十四郎いい子にするんだぞ」
「はい」

近藤さん達は最後に猫耳少年の頭をぽんと撫でると出て行ってしまった。
俺は猫耳少年のよく響き渡る声に驚き、彼がどんな表情をしていたのか見逃してしまった。
そうして俺に新たな同居人ができた。


猫耳少年を連れて部屋に戻ると、彼は俺の隣にちょこんと座った。

「えっと、名前はなんていうのかな?」
「ご主人様の好きにお呼び下さい」

彼は無表情で、機械的な口調で俺の質問に答える。

「でも、さっき近藤さんが君のこと名前を呼んでいたよね?」
「それは仮称です。本来名前はご主人様につけてもらうことになっているのですが、名前がないと不便だということで、近藤様が固体ナンバーからもじって十四郎と名付けてくださいました」

そう言って自分の右の襟足をかきあげ、首元を
見せる。
そこにはバーコードがあり、その下に“C-1046”と書いてあった。

「俺も“十四郎”って呼んでいいかな?俺ネームセンスなくて・・・」
「はい」

どうやら十四郎は俺が話したことには答えるが、自分から話すということはしないようだ。
俺が黙っていると十四郎は軽く目を伏せ、まるで俺の命令を待っているみたいだった。

「あのさ俺のこと“ご主人様”とか呼ばなくていいからね」
「そういうわけにはまいりません。あなた様は私の主人なのですから」
「なんかこそばゆいというか、悪いというかなんというか・・・本当に銀時とかでいいんだけど」
「では、銀時様でよろしいですか」

“様”は外せないらしい。

「まぁいいや。面倒くさくなったら呼び捨てにしていいから」

こっちが面倒くさくなり、つい投げやりになってしまう。
・・・どうにも扱いに困る。
言うことを何でも聞いてくれるのはいいが、何もかも命令しなくてはいけないのは疲れる。
それに敬語は堅苦しく、他人行儀な印象を与えるから好きではなかった。

「あの、お昼ご飯はもう作ったほうがよろしいでしょうか」
「っ、おお」

十四郎から話し掛けられてびっくりした。
用があればそっちから話し掛けてくれるんだ。

「何がよろしいでしょうか?」
「別に何でもいいよ。簡単にできるので。冷蔵庫の好きに使って。といってもたいしたもの入ってないけど」
「了解しました」
「敬語やめない?」
「すみませんが、愛玩人形としてそれはできません」

深く頭を下げると、十四郎は立ちあがり台所へと向かった。


十四郎がお昼を作っている間に、俺はさっき渡された取り扱い説明書を読む。
愛玩人形の取り説は意外と薄かった。
1ページ目にはさきほど受けた愛玩人形の説明とほぼ同じことが書かれていた。
愛玩人形には猫のほかに犬やらウサギやらいろいろなタイプがおり、顔立ちや体つきも何パターンかあるようだ。
自分の好きなようにカスタマイズできるらしく、十四郎の容姿もアンケートの結果から一応俺好みになっているような気がする。
愛玩人形には基本的な生活の仕方などの情報は与えられているらしいが、細かいところは主人である俺が教えていく必要があるらしい。
愛玩人形はペットとしての役割も担っているのだ。
俺が取り説を読んでいるうちに十四郎はお昼を作り終わったみたいだ。
普段料理を軽くではあるが作っている俺よりも手際が良い。

「お待たせいたしました。チャーハンを作ってみたのですが、どうでしょうか?」
「あ、ありがとう」

テーブルの上にできたてのチャーハンとわかめスープが丁寧に置かれる。
しかしテーブルの上に置かれたのは俺の分だけで、十四郎は自分の分を床に置く。
そして身体を俺のほうに向けて正座すると動かなくなる。
まるで犬の“待て”みたいだ。

「え、何?何でテーブルの上に置かないの?」
「愛玩人形は主人と同じテーブルでは食しませ
ん。私は銀時様のペットですから」

この一言でさっきから俺と目を合わせない理由がなんとなく分かった。
十四郎の中では目が合うことは対等の関係であることを示すのだと俺は察した。
うなだれて俺の言うことを聞くその姿は、王様の命令を何でも聞く家臣の姿に似ていた。
俺は十四郎が自分のことをペットであると卑下する発言をしたことを悲しく思った。
そんな言葉をこれ以上言って欲しくなかった。

「なぁ、一緒のテーブルで食べよう?」

返事は分かりきっているが、そう言わないと俺の良心が痛む。

「いえ、私はここで十分です。先ほどから銀時様のご期待に添えず申し訳ありません」

先ほどよりも深く頭を下げる十四郎を見て、俺はあることをひらめく。

「じゃあ、俺の“命令”っていうことだったらテーブルの上で食べてくれる?」
「私は銀時様の命令には逆らいません。・・・しかし本当によろしいのですか?」
「うん、もちろんだよ」

命令っていう形ではあったけど、一緒のテーブルで食べられるのは嬉しかった。
俺はなんとなくだけど十四郎を変える方法が分かったような気がした。
“失礼します”とおずおずと自分の皿をテーブルの上に置く仕草がいじらしい。

「いただきます」

さっそく俺はチャーハンを口に運ぶ。
ご飯がパラパラしていておいしかったし、スープの濃さもちょうど良かった。

「すごくおいしい」

と率直に感想を言うと、十四郎は赤くなって下を向いてしまった。
猫耳は十四郎の感情とリンクしているのか猫耳も一緒に下を向いていた。
ものすごく小さな声だったけど“ありがとうございます”という姿はとてもかわいかった。
食べ終わって後片付けぐらいはしようかなと思ってお皿を持って立ち上がると、

「あ、いけません銀時様!!そのようなことは私が!!」

と十四郎が俺の腕が掴んだ。
俺は驚いてつい皿から手が離れてしまった。
数秒後ガシャンと皿が割れる音が部屋に響いた。

「っ、申し訳ありません!!・・・痛っ」
「十四郎っ!!」

慌てて破片を拾ったせいか十四郎は指を切ってしまった。
あまり深くはないだろうが、指からは血がどんどん出てきていた。
俺は咄嗟に十四郎の指を吸うと、ティッシュで押さえさせる。
部屋からばんそうこうを探し出し貼ってあげると、十四郎の顔は青くなっていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい!!私銀時様にとんだご迷惑をかけてしまって・・・!!お仕置きして下さい!!何でもしますからっ、どうか許して下さい!!」

そんなことを涙目で訴えられ、俺はどうしていいか分からなかった。
しかし俺は別に十四郎にお仕置きするつもりはなかった。

「俺が勝手に手離したせいだから気にしないで。ていうか、手痛くない?」
「このくらい何でもありません!!もう2度と同じ過ちはしないよう、私を罰してください!!」

必死に懇願してくる十四郎の態度に俺は違和感を覚える。
見るとしっぽが身体の内側に巻きついていて、なんだかすごく恐がっているように見えた。
理由がなんであるかは分からなかったが、とりあえずパニックになっている十四郎をどうにかすることが先決だと思った。

「落ち着けって、お皿割れたのは十四郎のせいじゃないから」
「でもっ、私が銀時様の手に触れたばっかりにっ」
「手離したのは俺だし十四郎は何も悪くないから。お仕置きとかもしないから、なっ」

両手で十四郎の顔を包み、俺の話をよく聞かせる。
まだ納得がいかなかったようだが“はい”と答えてくれた。

「・・・あの、皿洗いは私がやります」

しなくていいと言っても聞かないだろうから、十四郎の好きにやらせることにした。
冷たい水が傷口に染みなきゃいいんだけど。
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