小説(銀魂・parallel)

□Last Night
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暖かい湯気を上げ、コトコトと鍋の中身が煮られていく。
お玉で中のつゆを掬い、口に入れて味を確認する。

「ん、おいしい」

俺は今、年越しそばを作っている最中だ。
麺を入れ、少しほぐれたのを確認すると箸で掻き回す。

「退、まだ〜?」

リビングから聞こえてくるのは、弟の晋助の声だ。
1つしか年が変わらず、身長もほとんど変わらないから晋助は俺のことを名前で呼ぶ。
まぁ俺は早生まれだから、学年は2つ違うんだけど。
一時期は“兄”と呼ばせようと努力してみたけど、結局あきらめてしまった。
今はもう慣れてしまい、“兄”呼ばわりされると逆に恥ずかしくなってしまう。
俺たちの父親は海外に勤務していて母親はそれについていったため、この家は現在俺と晋助の2人暮らしだ。
そのため家事は俺がやることになってしまった。
まぁ、晋助もたまに手伝ってくれるけどね。


「あと麺茹でるだけだからちょっと待ってて」

言いながら俺は台所を離れてリビングへ入り、コタツにあたっている晋助の向かいに座る。

「なんで隣来ないの?」

不機嫌そうな声で俺をにらむ。

「べ、別にいいでしょ?どこに座っても」

元々目つきが悪い晋助ににらまれるとちょっと恐い。
俺は晋助の隣に入るといろいろ悪戯されそうだったから一番遠い向かいに座ったのだ。
俺と晋助の関係は兄弟というだけではない、そう俺たちは恋人同士でもあるのだ。
夏休み中に晋助に好きだと迫られ、なんだかんだしているうちに俺も晋助のことを好きになっていた。
それ以来俺たちは誰にも知られずに兄弟兼恋人という関係を続けている。
やがて晋助は何事もなかったようにテレビのほうへ向き直った。
俺もテレビのほうを見てみると、それは出演者が笑うとお尻を叩かれるという大晦日に毎年やっているものだった。
2人で笑いながら見ていると何かが俺の身体にあたる。
晋助が足を伸ばしたのかなと思ったから、俺は気にせずテレビを見続けていた。
しかしそれは動き続け、そのうち俺の股間にあたるようになってきた。
不思議に思って晋助のほうを向くと晋助は普通にテレビを見ていて、俺のほうを見ようともしない。
そんなとき晋助の足が俺のいいところにあたった。

(っ!!)

突然の刺激に身体を震わせてしまう。

「・・・晋助、何?」
「何って何が?」

晋助は俺のほうは見ずに面倒くさそうに言う。
しかし晋助の口は笑っていた。
そこで俺はやっと晋助の考えに気付いた。

(隣に座らなかったぐらいで怒んないでよ〜)

晋助は怒って俺に八つ当たりをしているのである。
晋助は自分の思い通りにならないとすぐ機嫌が悪くなってしまうわがままっ子なのだ。
まったくどこで育て方を間違えてしまったのか。

(ちっちゃいころ甘やかしすぎたかな・・・?)

ちょっぴり自己嫌悪に陥っていると、なおも晋助の足は動き続ける。
俺自身をつぶすように揉み出したり、足の指を器用に動かし筋をなぞったりする。

(んっ・・・そんなとこ・・・あぁ、声出ちゃうよ〜)

弟に弄られて声を上げるのは普段喘がされているけどやっぱり兄として複雑だから、俺は口に手をやり声が出ないようにする。
下を向いて緩やかな快感をどうにかやり過ごしていると、晋助が俺に手を伸ばしてきた。

「どうしたの退?顔真っ赤じゃん」

晋助にからかわれ余計に顔が赤くなる。
“止めて”と言えばいいのに、俺の理性が言うことを躊躇わせる。
その間にも晋助の足は止まらず、手は俺の唇をなぞってさらに俺を煽る。

(はぁ、どうしよう・・・も、我慢できない・・・ひゃんっ)

目はすっかり生理的な涙で潤んでいた。

「なぁ、退。素直に言えばちゃんとしてやるぜ?」

その言葉に従うかのように、俺の口が開いた。

「し・・・」

ピピピッピピピッピピピッ
開いたと同時にタイマーが鳴り響く。
どうやら麺が茹で上がったようだ。

「くく、鳴ってるよ?止めにいかなくていいの?」
「い、い、今行くよ!!」

慌てて立ち上がって台所に向かう。
後ろで晋助は肩を震わせ、必死に笑いをこらえていた。


できたての蕎麦をお盆にのせてリビングに戻る。
俺は晋助の機嫌が悪くならないように今度は隣に入る。

「隣ってそこじゃなくて俺の隣って意味だったんだけど?」
「一般的にはここを隣って言うの!ほら、冷めちゃうから食べよ」

晋助のからかう言葉を無視するように俺は手を合わせる。
晋助も笑いながら手を合わせる。

「「いただきます」」

俺たちは声を揃えて言い、今年最後のご飯を食べる。

「おいしい?」

市販のものを多く使っているからまずいわけは
ないと思うけど、だしとか少しこだわってみたところもあるから晋助の反応が気になった。

「うまいよ」

晋助のそのあっさりした物言いは、それが本心であることを伝えてくれる。
俺は顔には出さないけど、内心すごく安心した。


食べ終わると、珍しく晋助が後片付けをすると言ってくれた。
俺は晋助の好意に甘え、その間にお風呂を済ませた。
お風呂から出てくると、晋助は先ほどのテレビの続きを見ていた。
時刻はもう11時30分をとうに過ぎ、今年ももう僅かだ。

「晋助、何か飲む〜?」
「・・・カフェオレ」
「分かった」

牛乳を温めている間に、コーヒーを溶かしておく。
俺は甘いのが好きだけど、晋助はちょっぴり苦いのが好きみたい。

「はいどうぞ」
「ありがとう退」

語尾にハートマークがつきそうなほど甘い声でお礼を言う。
それだけのことなのに、俺の胸は激しく脈を打つ。

「晋助つめて」
「は?」

晋助は困惑していたけど無視して、無理やり晋助と同じところに入る。

「狭くねぇの?」
「さっき晋助が言ったんでしょ?ここが隣だって」
「ふ〜ん、ま、俺は別にいいけど」

大人の男が同じところに入るのはきつかったけど、さっきみたいにされるのはもう嫌だったから、本当に隣に入ってやった。
ぴったり晋助にくっつくと、ずっとコタツにはいっていたせいか晋助の身体は暖かく、冷え始めていた俺にはちょうど良かった。
ふと晋助の顔を覗いてみると心持ち嬉しそうな顔をしていた。
そんな顔を見ているとこっちも嬉しい気持ちになってくる。
やっぱり好きな人の隣にいられるのは幸せだ。


カフェオレを飲み終えるころになると年越しまであと5分ほどになっていた。

「テレビ変えてもいい?」

晋助が見ている番組は12時過ぎまでやるため年越しの瞬間が分からないからだ。
晋助に許可をもらうとチャンネルを変える。
そこには年越しを待つ、あるお寺の映像が映し出されていた。
俺はコタツ布団の下でそーっと晋助のほうへ手を伸ばした。
晋助の手に触れると、晋助の手がピクリと動いた。
俺から晋助に触れることがあんまりないからだろうか、晋助は不思議そうにこちらを向く。

「ねぇ、晋助、キス・・・して?今年最後のキス」

晋助は一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐ口角を上げた。

「退からねだるなんて珍しいじゃん。じゃ、お望み通りしてやるよ」

晋助の顔が近づくのを見ると、俺は目を閉じる。
俺の唇が晋助のものと触れると、俺は軽く口を開ける。
夏休みのときにファーストキスを奪われてから数え切れないほど俺たちはキスをした。
最近ではすっかり慣れ、自分から舌を動かし晋助を感じさせるほどまで上達した。

「ふっ・・・んん・・・」

晋助の舌が顎の裏をなぞり、背中がぞくりとする。
俺は負けじと晋助の舌に合わせ自分の舌を絡めたり、晋助の舌を吸ったりした。
本当はずっとキスをしていたいけど、さすがに苦しくなってきたので唇を離す。
俺たちの口の周りには互いの唾液がつき、それが電気によっててらてらと光る。
晋助のそれを拭う仕草はとても自然でかっこよかった。

「これで満足した?もっと欲しい?」
「・・・も、大丈夫」

そうやって晋助の身体を引き離す。
晋助はもてるので、俺と関係を持つ前は女の子ともそうゆう関係を持っていた。
童貞だった俺とは違い、経験豊富な晋助はこういうことをしてもいつも余裕だった。
なんだか晋助のほうがお兄ちゃんのようで、ちょっぴりむかつく。

「退、あと10秒だって、年越しまで」

慌ててテレビ画面を見ると、テレビからカウントダウンの声が聞こえてきた。

『5、4、3・・・』

数字が減っていくごとに、俺の胸は高鳴る。
対照的に晋助はいつもと変わらない顔で画面を見ていた。

『1、あけましておめでとうございます!』

その声が聞こえると同時に俺は晋助にキスをした。
今度は触れるだけの簡単なキスだったから、すぐに顔を離す。

「あけましておめでとう。これが今年最初のキスだね」

恥ずかしかったけど、精一杯の笑顔を晋助に向ける。

「おめでとう。新年早々かわいいことしてくれんじゃん」
「こういうのしてみたかったから・・・今年もよろしくね、晋助」
「こっちこそよろしく・・・兄貴」

晋助に抱きつかれ、晋助の熱が俺に伝わる。
俺の熱も晋助に伝わっているのかな?


大好きだよ、晋助。
俺の大事な大事な愛しい弟。
今年もずっと晋助のこと愛しているから。
だからいっぱいいっぱい俺のことも愛してね。
・・・俺はもう晋助がいなきゃダメなんだから。


口では到底言えない台詞が俺の頭をよぎる。
少しでも伝わればいいなと思い、俺は晋助にまたキスをした。

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