小説(銀魂・parallel)

□ミルク
1ページ/2ページ

トラの銀時がウシの十四郎の元に現れてから1週間が経っていました。
その間牧場には銀時は来ず、来る気配さえありませんでした。
そのため十四郎はこの前の出来事が夢だったんじゃないか、と思い始めていました。


ある晩、十四郎はずいぶん前に寝床に入ったのですが、なかなか寝付けずにいました。
特にこれといった理由は思いつきません。
しかし隣に眠る総悟と退の寝息を聞くと自分も寝なくてはと焦り、余計に眠れなくなっていました。
早く眠れるようにとぎゅっと目をつぶると、入り口の近くでごそごそと物音がしました。

(近藤さんかな?でもこんな時間になんだろう)

そうっと目を開けると、目の前には銀時の顔がアップでありました。
思わず叫びそうになりましたが、間一髪銀時に口をふさがれくぐもった声しか出ませんでした。

「んんっ、ん〜」
「しー、うるさくすると隣の子起きちゃうよ?」

十四郎が黙ると銀時は手を離しました。

(ってめ、何しにきたんだよ!まさか俺たちのこと狙って・・・)

十四郎はできるだけ小さい声で抗議しました。

(違うよ。ちょっと話がしたかったから。ここじゃ喋りにくいから外行こう?)

そう言って銀時は十四郎に手を差し出しました。
これは罠かもしれないと思いましたが、十四郎は手を握り返してしまいました。
なんとなくこの前の様子から見て自分を食べるようには思えなかったからです。
あるいは銀時に対する好奇心からかもしれません。


外と言っても寝床である牛舎のドアを出たところに連れて行かれました。
一瞬、森のほうに連れて行かれるのでは思ったので十四郎は安心しました。
月明かりが照らす芝生の上に二人で並んで座りました。

「で、話ってなんだよ?」
「この前のことちゃんと謝んなきゃって思ってさ。昼間じゃ俺追い出されちゃうし、夜中になかなか抜け出せなくて、今更なんだけどさ」

そこで銀時は十四郎のほうを向いて十四郎の手を力強く握ってきました。

「泣かせちゃってごめんな」
「・・・別に気にしてないし」

あの時恥も外聞もなく泣き出したことを思い出して、十四郎の顔はトマトのように赤くなっていきます。
とうとう銀時の顔も見られなくなってしまいました。

「花は気付いてくれた?」
「やっぱりお前だったんだ。近藤さんが不思議がってた」
「どうすれば俺の気持ちが伝わるかと思ってさ」

このぐらいになってくるとお互い緊張が解けて笑顔を向けられるようになっていました。

「俺さやっぱり十四郎のこと気に入ったみたい。また夜に会いに来てもいい?」

十四郎も銀時のことを気に入ってきていたので、頭を縦に振りました。
そうすると銀時は今までで一番の笑顔を見せました。

「じゃあ、また来るから。おやすみ」

銀時が十四郎のほうへ顔を寄せ、頬に軽く口付けました。

「えっ、あ・・・」

突然のことに戸惑っている十四郎に銀時は背を向けると、手を大きく振りながら森へと帰っていきました。
十四郎も少しの間触れられたところに指をやりながら固まっていましたが、やがて自分の寝床へと戻っていきました。
寝床に入るとさっきまでがまるで嘘のようにすっと眠ることができました。


それからは2,3日おきに銀時が訪れるようになりました。
昼間一人でいることができないので、必然的に深夜に会うことになります。
二人はいつもドアの前で仲良く座って、眠気が訪れるまで話していました。
最初は銀時が十四郎に話し掛けてばかりでしたが、慣れてくると十四郎も自分から話をするようになりました。
二人の会話は今日あったことなど他愛のないものばかりでした。
それでもお互いにとってはとても大事なことでした。
二人とも話すたびに相手のことを知ることができるのが嬉しいのです。
また仲良くなるにつれ、自然とスキンシップも増えていきました。
これは十四郎からすることはなかったのです
が、それでも銀時は満足でした。


すっかり銀時と会うことが習慣付いた十四郎はドアの前で銀時が来るのを待っていました。

「はぁ、遅いな」

いつもならとっくにやってくる時間を過ぎていました。
暇でしょうがないのでしっぽのリボンを弄っていましたが、すぐに飽きてしまいました。

(約束したこと忘れちゃったのかなぁ)

あきらめて寝床に戻ろうとしたときに、やっと
銀時が現れました。

「ごめん。これ作ってたら遅くなっちゃって」

そう言って差し出されたのはお花の冠でした。
来る途中に花畑を見つけ、以前作り方を教えてもらったことを思い出したのです。
十四郎は男の子ですから、花を貰ってもそんなに嬉しくはありません。
しかし銀時が自分のことを考えてくれたことを嬉しく思いました。

「ありがとう」

銀時から受け取るとそっと自分の頭の上に乗せてみました。
角が邪魔してうまく乗せられなかったので銀時に手伝ってもらいました。

「どう?」
「似合ってる。すごくかわいいよ」
「かわいいって言われても複雑なんだけど。あ、そうだ。俺も何か銀時にお礼したい」

思えば銀時からいろいろ貰ってばかりで、十四郎は何もあげていません。

「んー、欲しいものは特にないかも」
「じゃ、じゃあ、俺にして欲しいこととかは?」

必死になって自分の顔を覗き込んでくる十四郎に銀時は良くない考えを思いつきました。

「それじゃあ・・・」

銀時は十四郎の手と腰を掴んで逃げられないようにしてから、距離をぐっと縮めました。

「いっ、な、何?」
「ちゅー、して。十四郎から・・・十四郎も俺のこと好きなんでしょ?」
「べ、別に好きじゃないっ」
「じゃ、なんでいつも俺と会ってくれるの?好きじゃなかったらこんな夜中に会って話なんてしないはずだよ」
「・・・それは」

十四郎は答えに詰まってしまい、視線を泳がせることしかできません。
十四郎にだってその理由がよく分からないのです。
どうして銀時と会うことが楽しみなのか。
どうして銀時と話していると自然と笑顔になれるのか。
ずっと考えていることですが、どうしてもその答えが思いつかないのです。
銀時のことは好きですが、それが銀時の言う好きなのかも判断できません。

「そんなに嫌ならしなくていいよ。それならもう何もいらない。それに十四郎とはもう会わない」
「あっ、そんな」
「俺は十四郎が好きだからこの前手を出したんだ。このままずっといたら我慢できなくなる。十四郎を傷つけたくはないんだ」

どうしましょう。
頭の中がグルグルするばかりで何も考えられません。

(俺にとって一番大事なことは?優先しなくちゃいけないことは?)

真っ先に頭に浮かんだことは銀時とずっと一緒にいたいということでした。

「じゃあね」

答えない俺を見て、どうやら願いを聞き入れてはもらえないと判断したようでした。
寂しそうな笑顔を浮かべて立ち上がろうとする銀時の腕を十四郎は掴みました。

「おい、待てよ。するから待て」
「無理しないで。変に期待すると後でつらいから」
「俺もっ、俺もお前が好きだと思う。お前と同じ意味で・・・目閉じろ」

銀時は目を見開いて驚きを隠せませんでしたが、素直に十四郎の言うことを聞きました。
一方十四郎も自分からキスをすることに緊張していました。
自分から言ったことなのですが、目を閉じて待っていられるとこれからするぞという雰囲気が強まり、余計に照れくさくなるのでした。
こくりと息を飲むと、十四郎は自分の唇を銀時のものと重ね合わせました。
恥ずかしいので触れるとすぐに離してしまいました。
ちゅっという濡れた音が静かな夜空に響きました。

「これでいいか?」
「うん、ありがとう。やっぱり十四郎も俺のこと好きだったんだ」
「やっぱりって。お前と会えなくなるのが嫌だったからな」
「嬉しい・・・ねぇ、次会うときはもっとすごいことしたい」
「すごいこと?」
「森でしたことのその先まで。でも今度は無理矢理はしないし、泣かせもしないから」

十四郎はされたことを思い出し、顔に不安の色が浮かびます。

「覚悟ができたら外で待ってて。俺はいつまで
も十四郎のこと待ってるから」

眉が寄せられている眉間をちょんと突いて、銀時はにっこりと微笑みました。
こんなちょっとした冗談がいつも十四郎を元気付けるのでした。

「ふぁあ」

話が一段落したところで身体から力が抜けたのでしょう。
眠気に襲われ二人して大きな欠伸をしました。

「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ。なるべく早く会うようにするからっ」

そう捲くし立てると十四郎は寝床へと走って戻っていきました。
残された銀時も上機嫌で森へと帰っていきました。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ