拍手お礼小説

□あめふり
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夕方になって急に雲行きが怪しくなってきた。
瞬く間に空が暗くなり、湿った雨の匂いもしてきた。

「んん・・・やばい、早く洗濯物しまわないと」

俺は眠い身体を起こし、ベランダへと向かう。
ご飯を食べてすぐに眠ってしまったために洗濯物をしまい忘れていたのだ。
急いで洗濯物を畳んでいると、ふと玄関においてある銀時の傘が目に入った。

(雨降った時に傘なかったら銀時困るよな・・・)

確か今日は少し早く帰れると言っていたはずだ。
すでに雨は降り始めていてその勢いは増してきている。
俺は銀時の傘を手にし、駅まで向かいに行くことにした。


愛玩人形が日本で売り出されてからまだ間もない。
ゆえに好奇の目で見られるのが嫌なので、耳はフードで隠し、しっぽは洋服の中にしまった。
そこさえ隠してしまえば、後は人間とそう変わらない。
俺のことを愛玩人形だと見抜いた人は1人もいなかった。


駅に着くと、そこは雨が弱まるのを待つ人々でいっぱいだった。
辺りをキョロキョロと見回すと見慣れた銀髪が目に入る。

「銀時!」

そう声をかけると銀時はすぐに俺に気付いてくれた。
こんなにうるさいのに瞬時に俺の声を聞き分けてくれたことを嬉しく思う。

「どうしたの、十四郎?あっ、傘持ってきてくれたんだ。ありがとう」

銀時はにこりと微笑んで、俺の頭をそっと撫でた。

「あれ?でもなんで傘1本しか持ってこなかったの?」
「へっ・・・あぁっ!!」

銀時の傘を持っていくことしか頭になくて銀時の傘しか持ってこなかった。
その隣にはちゃんと自分用の傘が置いてあったというのに。

(結局俺が濡れることになってるし)

がっくりとうなだれていると銀時が傘を差し出してきた。

「それじゃあ一緒に入ろうか。相々傘って一度してみたかったし」
「・・・うん」

そして俺たちは仲良く1本の傘で帰ることになった。
濡れちゃうからっていう大義名分のおかげで、俺は外でも銀時のすぐ近くにいることができた。
銀時の顔がずっと近くにあってなんだか恥ずかしかったけど、俺はとても幸せな気分になれたのだった。

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