小説(銀魂・原作)

□聖なる夜に
1ページ/1ページ

万事屋を出ようとしたところでちょうど電話が鳴った。
嫌な予感がしたが、とりあえず出てみる。

「はい、万事屋銀ちゃんです」
「俺だ・・・悪ぃ、今日会えなくなった」

電話の主は俺の恋人である、真選組副長の土方十四郎だ。
約束をドタキャンしたためか電話の相手はすまなそうな声のトーンで話す。

「さっき犯行予告が屯所に届いて、真選組総出で警戒にあたらなくちゃならなくなって・・・前から約束してたのに・・・ゴメン」
「仕事なんだからしょうがねぇよ。あんま気にしなくていいから・・・うん、じゃ」

フーッとため息を吐きながら受話器を置く。
身体から力が抜けるほどショックを受けたようだ。
それだけ心の内では今日のことを楽しみにしていたのだろう。


今日は12月24日。
巷ではクリスマスイブということで、かぶき町もライトアップされている。
俺があいつと恋人になって2度目のクリスマスだった。
去年は前から仕事が入ってしまっていて会えなかったので、今年は休みにしてもらうように頼んであったのだ。

(はぁ、クリスマスイブに犯罪起こすなよ!クリスマス休みにしたせいで、年末年始は十四郎仕事入っちゃってるのにぃぃぃ!!)

誰もいない部屋で愚痴っても悲しいだけだ。
今日は十四郎と会う約束だったので、お妙が気を利かせて新八たちを自宅に連れていってくれていたのである。
つまり、今年の俺はロンクリということである。

(ったく、やってられっか!!)

俺はイライラしてきて、まだ夕方だというのに酒を飲むことにした。


飲みきったビールの缶を机に置く。
机の上に置かれた空き缶の数は5本は優にあった。
瞼がだんだん重くなってきていたので、そろそろ眠りに就こうかとぼんやりと考えていた。
そんな時に、玄関の戸がガタガタと鳴った。

(・・・・神楽か?忘れもんでもしたのか)

玄関は鍵をかけてあったので、開けてやるために玄関へ足を進める。
ふと玄関のほうを見てみると、外が明るいため戸に影ができていた。
その影は大きく、体格がいいふうに見えたため、神楽ではないと判断できた。

(誰だ?あの影じゃ男だろ?新八はあんなでかくねぇし、長谷川さんか?)

頭の中でいろいろ疑問は湧くが、酔った頭ではどうでもいいように感じた。
まぁ、誰が立っていようと今日の愚痴を聞いてもらって、また酒を飲む気でいた。
俺はどうでもいい感じで鍵を開け、戸を開ける。

「クリスマスだってのに寂しい銀ちゃんに何の用ですか〜?」
「・・・酔ってんのか?」

その声に反応して顔を上げると、そこには十四郎がいた。
一瞬酔ってるせいで幻覚でも見てるんじゃねぇかと思った。

「あれ、土方君?えっと、仕事は?」
「犯人が分かりやすい奴で、すぐ見つけることができたんだ。近藤さんが約束あったんだから後は任して行っていいって」
「あ、そう・・・えと、ここじゃ寒いから中入る?」

そう俺が問いかけるとコクッと頷いた。


「・・・」

俺たちは向かい合って座っていたが、どちらも何も言葉を発しなかった。

(気まずっ!!十四郎はずっと下向いっちゃってるしさぁ)
「えっと、なんか飲む?」

十四郎はふるふると顔を横に振る。
その後はまた沈黙が続く。

(十四郎なんか落ち込んでる?お仕事失敗したとか・・・?)

どうにか十四郎の考えを読み取ろうと思い、俺は十四郎の動きに注意していた。

「・・・ゴメン」

小さな声だったが、そう聞こえたような気がした。

「何が?」
「前から約束してたのに、破っちゃった・・・から」

なんとなく十四郎がへこんでいる理由が分かってきた。
俺たちは今日まで各々の仕事が忙しくて全然会えていなかった。
やっとデート(?)できる日が来たのにキャンセルになってしまって申し訳なく思っているのだろう。
そこまで俺のことを気にしてくれていたのかと思うと、先ほどまでの暗い気持ちは吹き飛んでしまった。

「電話でも気にすんなって言っただろ?警察なんだからこの時期忙しいことは分かっているから。つーか、そのせいでおめぇ最近寝る暇もなく働いていたって聞いて、約束入れて俺のほうこそ悪かったな」
「いや、俺も銀時に・・・会いたかったから・・・」

相変わらず十四郎は下を向いていたけど、無造作に切られた黒髪から覗く耳は真っ赤になっていた。
それは先ほどまで寒い外にいたせいだけではないのだろう。

「会えなくて寂しかったの?そんなに俺のこと好き?」

少しからかうかのような口調でそう尋ね、俺は十四郎の隣に移動する。
俺の言葉に反応してバッと顔を上げるが、さっきの自分の言葉を思い出し、すごいことを言ってしまったと自覚したその顔は、みるみる赤く染まっていく。

「っ違う!!」

不器用な照れ隠しに俺は苦笑する。

「はいはい、銀ちゃんも十四郎のこと愛してますよー」

そう言って十四郎に抱きつく。
俺の身体はアルコールのせいで火照っていたから、十四郎の冷えた身体がとても心地よかった。

「変なこと言うな!!つか、離せよ!!」

俺の愛しい恋人は恥ずかしさから腕の中で暴れ出すが、俺は気にせずギュッと抱き締め続ける。
そのままぽんぽんと背中をさすると落ち着いてきたのか動かなくなり、俺の背中におずおずと手を回してきた。
十四郎は俺の肩に自分の顔をのせているため、俺の口元には十四郎の耳があった。
俺はその耳もとで本心を告げる。

「なぁ、来年こそは一緒にクリスマス過ごそうな」
「・・・おぉ、絶対休み取る」

十四郎がさらに強く抱きついてきてくれて、十四郎の気分が上がってきたことが分かった。
頭をそっと撫でてあげると、顔を上げ、潤んだ瞳で俺を見つめる。
俺たちは無言で顔を近づけ合うと、優しく啄ばむようなキスをした。


しんとした万事屋の中にチュッ、チュッという水音が響いていたが、俺には鈴の音も聞こえたような気がした。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ