小説(銀魂・原作)

□My name is...
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真選組の仕事の一つである市中見回りを行っていると、すっかり嗅ぎなれてしまった匂いがした。
それはとてもとても甘い匂いであったが、全然嫌な匂いではなかった。
俺の頭の中ではあいつのふわふわの銀糸が思い出されていた。


「お勤めご苦労さん。多串君」
「・・・土方だ。つか、ホント誰だよ多串って!!」

棒つきキャンディーを咥えながらこちらに歩いてくる男、坂田銀時は相変わらず俺の名前を間違える。

「だって〜、多串って顔してるんだもん」

しまりのない顔をしながらそう言ってくる銀時を見ているとなんだか無性にイライラしてくる。

(ふぅ、落ち着け俺。こういうときはニコチン摂取が必要だ!!)

上着のポケットからタバコを取り出すと、

「またタバコ?早死にするよ」

あきれるような口調で、そう銀時に言われた。

「うっせーな。タバコとマヨネーズは俺の精神安定剤なんだよ」

てめぇもたまに吸ってんじゃねぇかという視線をやりつつ、愛用のマヨ型ライターでタバコに火を付ける。
タバコの煙が俺の肺を満たし、気持ちが落ち着いてきた。
そして変に気持ちが落ち着きすぎたせいか、俺の脳内にある疑問が浮かび上がってきた。

(・・・もしかして銀時って俺の名前覚えてない!?)

仮にも恋人同士なのだから、そんなことはないよなと思いつつ、情事のときでも“土方”とか“十四郎”とか名前を呼んでくれないことを思い出す。
だんだん気分がブルーになってきた俺だが、意を決して銀時に聞いてみることにした。

「なぁ、お前俺の名前覚えているよな・・・?」
「え、ん〜と・・・」

銀時は上を向いて長々と悩んでいる。
俺はやっぱり覚えてなかったのかとショックを受ける。
もうショックすぎて泣きそうだった。
このまま思い出せないようなら、絶対別れてやる!!
そう心に決めていると、ふいに銀時は口を動かした。

「とーしろーでしょ?土方十四郎。いくらちゃらんぽらんの銀さんだって、大事な大事な恋人の名前忘れるわけはないでしょ?」
「っ!!」

そう言って小首を傾げて俺の顔を覗き込む銀時を不覚にもかわいいと思ってしまう。

「あれ、涙目?あ、名前忘れられているかもって思って悲しくなっちゃった?」

「んなわけあるか!!」
顔が真っ赤になっていたから、おそらく図星だということはばれているのだろう。
だが、鬼の副長がこんなことで泣きそうになっていたなんて知られるのは、とてつもなく恥ずかしかった。
総悟と見回りしてなくてホント良かったといまさらながら思う。
そのまま黙って手で顔を隠して下を向いていると、銀時に腕を掴まれ狭い路地へと連れて行かれた。


「泣かせちゃってごめんね、としろ」

そう言って銀時は俺に口付けをしてくる。
“としろ”
甘えるように名前を呼ばれると俺はもう駄目だった。
好きな人に名前を呼ばれることがこんなにも嬉しいことだったなんて知らなかった。


あいつの舌が俺の唇をこじ開け、俺のそれに絡みつく。
くやしいが上手い。
こんなことでさえ負けたくないと思い、自らあいつの舌に吸い付いた。
銀時はそんな俺の態度に満足したらしく、さらに深く舌を入れてくる。
舌が絡み合うチュクチュクとした水音だけが誰もいない路地裏に鳴り響く。
どちらかともなく唇を離すと、お互いの唾液が糸を引いた。
その時の俺はもう頭の中が嬉しい気持ちやら恥ずかしい気持ちやらでグルグルしていて、とてもじゃないがあいつの顔なんてまともに見られず、ふいと顔をそらせていた。
その行為が銀時をさらに煽っているとは知らずに。


「・・・ね、今夜万事屋に来て。今日は誰もい
ないから」

そっと耳元で囁かれ、あやうく腰が抜けそうになった。
やっとの思いでその問いにうなずくと、銀時を押し返して逃げるように屯所へ帰った。
なんだか背中越しに銀時のにやり顔が見えたような気がした。


(・・・昔はバラガキのトシで有名だったのになぁ)

屯所の自室で自嘲気味につぶやき、夜どんな顔して万事屋に行こうかと考えた。

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