小説(銀魂・原作)

□サンダ―ドロップ
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外に出ればセミがミンミンと必死に求愛活動をしているのが嫌でも耳に入ってくる。
俺はその声を聞くたびに暑く感じて仕方がなかった。
とりあえず隊服は通気性悪いし、スカーフは暑苦しい。
真夏は自分が公務員であることが恨めしくなる。
これ以上着ていたら熱中症にでもなる気がして、俺は上着を脱ぐことにした。
ついでにスカーフも緩めておく。

「一雨降って涼しくなんねぇかな」

ふと空を見上げてみるも快晴であった。
入道雲がもくもくとそびえ立ち、まんま夏の空という雰囲気があった。
そのまま空を睨んでいても何も変わらないと俺だって分かっている。
そのため新しいタバコに火を付けて、仕事へと戻った。


しかし市中見回りをしているうちに辺りがだんだん暗くなってきていた。
念願の雨と言いたいところだが、生憎傘を持ってきていない。
急ぎ足で終えようかと考えていると雷が鳴り始めた。
そしてあっという間にザーッと雨が降りだす。
夏特有のいきなり強く降りだす、いわゆる夕立だった。
俺は雨宿りできそうな場所を探しているうちにびしょ濡れになってしまった。
ワイシャツが張り付く感覚が嫌なので、ベストを脱いでボタンを緩める。
ここまで濡れてしまってはもう雨宿りも何もない。
だから俺は諦めて屯所に帰ることにした。


「あらー?土方君じゃん」

路地から出てきた男に俺は思いっきり嫌な顔をした。
それはそいつが一番会いたくない男だったからだ。
雨のせいか髪がさらにクルクルと跳ねていた。

「うわ、そんな嫌そうな顔しなくていいじゃん。銀さん傷付いちゃうよ〜」
「その言い方のどこが傷付いてんだよ」

顔を見ただけでムカムカしてきて、声が自然と低くなる。
反対に銀時はニコニコと締まりのない顔をしている。

「てか大分濡れてんじゃん!傘持ってなかったの?」
「・・・別にお前には関係ないだろ」

なんとなく自分が失敗したところを見られた気分がして、突き放すようなことしか言えなかった。

「関係なくはないでしょ・・・大事な彼氏なんだから」

最後の言葉は耳元でそっと甘く囁かれた。
そうされると不覚にもときめいてしまう自分がいる。
まぁ、一応彼氏っていうのは間違ってないし・・・すごく不本意なんだがな。

「うっせーなっ!!」

顔が赤くなってしまう前に銀時を突き飛ばした。
銀時は俺が照れていると分かるとそのことでまたからかってくるのだ。

「ててっ、ちょっとくらい加減しろよな」

全然痛くないくせにさも俺が悪いような言い方をする。

「まったくかわいくないん・・・ん?」

俺にくっつきながらそう言ってきたのだが、途中で言葉を切ってしまう。
不審に思って銀時のほうを見てみると、銀時は俺の胸の辺りをじっと見ていた。

「何?」

目を凝らしてじーっと見つめている銀時に不審げな視線を向ける。

「・・・透けてる」
「は?」

確かに雨に濡れたせいで薄いワイシャツは透けているだろう。
だけど女子じゃあるまいしそんなの全然気にしてなかった。

「お前さぁ、この状態でどれくらい歩いていたわけ?」

銀時は俺の肩を掴んで、少しため息交じりで聞いてきた。

「どれくらいって言われても・・・つか何が言いてぇんだよ?」
「お前ねぇ、自分のかわいさをもちっと自覚したほうがいいよ」
「はぁっ!?」

かわいいってなんだよ!!
生まれてこの方かっこいいは言われたことはあるが、かわいいは一度もない。
しかも江戸に上京してからは恐れられてばかりなんですけど。

「はっ、てめぇの目は腐ってんじゃねぇのか。俺のどこがかわいいって言うんだ」
「えーと、まずツンデレなところでしょ、意地っ張りなところでしょ、それに意外と恐がりなところもかわいいし・・・」
「もう言うな!」

銀時は指を折り曲げて俺のかわいい(ところらしい)ポイントを挙げていく。
すらすらと挙げていく銀時に驚いた。

(俺はあんなに銀時の好きなところとか言えるか・・・?)

なんだか言えないような気がしてきて、そのことを深く考えるのは止めにした。

「つまり俺が言いたいのは土方君は自分が思ってるより魅力的だということだよ、うん」

銀時は勝手に納得していたけど、俺にはやっぱり理解できない。

「じゃあ、このままの格好で歩き続けてたら襲われてたとでも言いたいのかよ」
「もちろん。俺だったら即襲ってるし」

なんか今まで見たことのないほどの笑顔なのが恐いんですけど。

「分かったよ、屯所に帰ればいいんだろ」
「ちゃんと上着着てからな」

本当は着ないで帰るつもりだったけどそんな考えはお見通しらしい。
先に釘を打たれてしまった。
言う事聞かないとまたグチグチ言われそうだったので、そこは素直に聞いておくことにした。
上着を着ると濡れたワイシャツが今まで以上に肌にピタリとくっついた。
それに濡れたところがひんやりしていて少し肌寒い。

「よし。部屋に戻ったらすぐ着替えて風邪とかひかないようにしろよ」
「そんなの言われなくても分かってるよ」

銀時には俺がすぐ仕事に取り掛かるように見えているのだろうか?
そこまで仕事人間ではないんだけど。

「じゃあ言うこと聞けたご褒美」

そう言って銀時は唇を耳元に寄せてきた。
手で隠していたから傍目には内緒話しているように見えたかもしれない。
だが俺は公道でこんなことしてくるとは思いもしなかった。
だから反射的に銀時を殴ってしまった。

「いきなり何するんだ、てめぇはよ!」
「いったいなぁ、本当乱暴なお姫さまなんだから」
「姫とか言うな!!そんなキャラじゃねぇし、つか俺男だし」

姫っていうと守られているイメージがあるから、言われるのは少しカチンとくる。
そりゃ銀時には勝てなかったけど、守られるほど弱かねぇ。

「ふん、お前にはいつか絶対勝つからな」

銀時にそう言い切ると、俺は銀時に背中を向け屯所へと歩を進めた。

「はいはい」

当の銀時はまったく本気にしていない顔で、俺に手を振っていた。


たくさん稽古をして強くなって、大切な仲間たちを守るんだ。
もちろん銀時より強くなってやる。
それは口げんかでも、サシの戦いでも・・・エッチの時でも、な?

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