夢の世界へいざ行かん!

□ベイビーパズル
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「おかーあさん。」
「心結ちゃん!」
「一緒に行っていいですか?」

トボトボと道を歩く後ろ姿を見つけて声をかける。
お母さんは驚きながらも嬉しそうな顔を見せてくれた。

「要、照れてるだけですよ。」

要を庇うつもりはハナからないが、お母さんは別だ。

「ふふ、ありがとう。やっぱり恥ずかしいものなのかしらねえ。」
「お年頃ってやつですよ。」
「あら、それを言うなら心結ちゃんもじゃない!」

可笑しそうに笑うお母さんに自然と頬が緩んだ。





お母さんが買い物をしている間フラフラと店内を歩きまわる。
夕飯の買い出しで賑わう店内は慌ただしく、のんびり歩いている横をスッと何度も人の風が通り抜ける。

ふとお菓子の棚へ目を向ければ、千鶴のような金髪少年がいて(まあ千鶴みたいに触角はないようだけど)、どこぞの不良かなぁとぼんやり見ていればどうやら本場の人らしく、お菓子を両手に店員さんに話し掛けていた。

「Which are you cheap?(どちらが安いですか?)」
「え、あ…、え?」

話し掛けられた店員さんはしどろもどろだ。

「Which are you cheap?」
「アイキャントスピークイングリッシュ!!」

同じ質問を繰り返した少年に、カタコト英語を早口で返した店員は逃げるように立ち去っていく。

「“I can't speak English”?You're speaking.(“英語が話せません?”話してるじゃんか。)」

とんだ揚げ足とりだ。

しかしまぁなんてゆーかあんな簡単な英語もわからんのかと、逃げていった店員を思い返しため息をついた。
そして再びお菓子を見比べる少年に近づいて両手に持つお菓子のうち一つを指さして言った。

「Here is better than cheap.(こっちの方が安いですよ。)」
「Oh…,thank you!」

にぱっと笑顔を見せる少年にじゃあ、と踵を返そうとすれば、

「Wait!(待って!)」

ガシッと腕を掴まれた。

「My name is Michael.Thank you kindly tell.(ボクの名前はマイケル。親切に教えてくれてありがとう。)」
「…You're welcome.(…どういたしまして。)」

何故引き留めるんですか。
何故自己紹介してるんですか。
あれ、これめんどくさい感じ?

「I'm actually I've been running away from home,(実は僕家出してきたんだけど、)」
「…I wait a moment,Where did you come from?(ちょっと待って、キミどこから来たの?)」
「From the United States.(え、アメリカから。)」

家出の規模でかすぎやしませんか。
どんだけグローバルなんですか。

それから何故だかつらつらと身の上を語ったマイケルくんは、また会おうねと爽やかに笑って去って行った。

「何なんだ…。」

家出の理由を自分のことを溺愛してくる母親にうんざりしたとか述べていた彼に、ふと要の顔が浮かんでくる。
……いや、要は何だかんだ言ってお母さん大事にしてるから家出なんてしないだろう。

「心結ちゃーん、帰りましょーう?」

買い物が終わったらしいお母さんがレジの向こうで手を振っていた。





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