夢の世界へいざ行かん!
□番外編 遠い日の約束
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「それでさ!こーちゃんなんて言ったと思う?」
「こら!あきら!余計なこと言うな!」
土手までの道のりを相変わらず騒がしく歩くあきらさんと、それを止める東先生。
「うーん…。」
この二人には何故だか見覚えがある。
「どうしたの?悩みごと?」
「あ、いえ、」
「悩んでたって前には進まないよー?その時出来ることをやる!うん!」
「あきら…。」
ガックリうなだれた東先生を見て、それからあきらさんを見る。
…あぁ、そうか。
この人たちはあの時の――。
「穂稀高校のお兄ちゃんたちが職場体験で来てくれました。今日一日みんなの先生になってくれます。」
「よろしく…。」
「はいよろしくーっ。」
その時来たのが、こういちお兄ちゃんとあきらお兄ちゃん。
私は悠太兄ぃたちより一つ下のクラスだったけど、その日は雪が降って園児全員で雪遊びすることになったから、少し、関わったんだ。
「雪合戦だー!」
キャーと嬉しそうな声を上げて外を駆け回っている子たちを、私はただ、室内で見ているだけ。
「あ、あきらお兄ちゃん雪合戦してる。こういちお兄ちゃんは雪だるま。ゆーたにぃとゆーきは…、」
だんだんと言葉に詰まる。
「…いいなあ、わたしも雪であそびたい。」
「遊ばないの?」
「!」
呟いた言葉に返事が返ってきて驚いた。
「ぁ、あきらお兄ちゃん。」
忘れ物を取りに来たらしいあきらお兄ちゃんは、ん?と首を傾げてもう一度言った。
「遊ばないの?」
「ん、と…、あそんじゃいけないの。おとうさんとおかあさんに怒られちゃう。」
「なんで?」
「わたしのからだがよわいから。」
「ふーん。じゃ仕方ないね。」
「…うん、」
そう言って忘れ物片手に外に飛び出したあきらお兄ちゃん。
「なんで…、からだよわいのかな。」
再びガラス越しの外に目を向けると、目の前がうるっと歪む。
「なんで、かなあ…。」
抱えた膝に顔をうずめて、答えのない問いを繰り返した。
「…ねえ!」
「!」
突然かかった声にビクリと肩を震わせてそっと顔を上げると、さっき飛び出していったあきらお兄ちゃんがいた。
「ねえ、悩んでたって前には進まないよー?」
「え…、」
「その時出来ることをやらなきゃっ!」
「できること…?」
「そ!今キミが出来ることは体を強くするように頑張ること!無理して外で遊んだら全然体は強くならないし、泣いてたら気分的にイヤだ!」
「?」
「今はキミがこの先思いっきり外で遊べる為の準備期間なんだよ!うん!きっとそう!」
うんうんと納得するあきらお兄ちゃんに、思わずポカンとしてしまった。
「じゅんびきかん…。」
「うん、だからね?そんな頑張ってるキミにプレゼント!」
差し出された手には雪の塊。
「雪だるまだぁ…。」
「ボクの傑作!キミにあげるね。」
「…いいの?」
「うん!」
受け取った雪だるまは冷たいはずなのに、何故かホカホカと暖かかった。
あの後、再び外に飛び出したあきらお兄ちゃんと入れ違いになるように要が飛び込んできた。
泣きそうな顔でうずくまった要をこういちお兄ちゃんが慰めて、悠太兄ぃと祐希がからかう。
騒がしい一時に、ほっと息を吐いたのを覚えている。
「そうか…あの時の、ねぇ…。」
「なにか言った?心結さん。」
「いえ、なんでもないです。」
東先生はそう?と言って前を向く。
「ね、あきらさん。」
「んー?」
「今度、遊び行きません?」
「うんっいーよー!」
にっこり笑って答えてくれたあきらさん。
「あれ…?」
「なぁにっ?」
「…いえ。」
その顔はなんだか私のことを覚えているかのようで。
「え?いつの間に仲良くなったの?」
東先生は隣で不思議そうな顔をしていた。
『体強くなったらさっ、一緒に遊ぼう!』
『うんっ。約束ね、あきらお兄ちゃん。』
それは遠い日の約束。
END.