夢の世界へいざ行かん!

□番外編 守るべきものは
1ページ/1ページ


―あ、見て!今の一年の浅羽よ!
―浅羽くんたちと少し仲良くしてるからっていい気になって!
―生意気よね、同じ名字ってだけで!
―ほんと!何様のつもりかしら!
―ああいうのに限って性格悪いのよ!
―聞いた!?アイツいやらしい手口使って浅羽くんたちに迫ってるらしいわよ!
―マジで!?信じらんない!
―気色悪〜!
―あーやだやだ!廊下の真ん中歩かないで欲しいわよね!













やたら絡んでくる転校生が来て数日。
その噂はあっという間に広がった。

移動教室で(仕方なく)一緒に歩いている時も、耳にするのは噂ばかり。
それもあることないことでっち上げたデタラメ。
だって同じ浅羽って言っても兄弟妹(きょうだい)だもの。
仲がいいのは当たり前だし、迫るなんて馬鹿げている。

そんな噂話にイライラして、隣を歩く噂の種を見上げる。

「ん、なぁに?佐藤さん。」
「…何でもないわよ!」

…なんで、何も言わないのよ。

噂は聞こえている筈なのに。












「え…、あいつが?」
「佐藤さん、仲良くしてたみたいだから一応言ったほうがいいかと思って…。」

お手洗いから戻るとクラスの子がおずおずと話しかけてきた。

―浅羽さんが、二年生に連れて行かれた。

それを聞いて思わず教室を飛び出した。

なんで、なんで何も言わないのよ!
言えば丸く収まるじゃない!

長い廊下を走りながら、いつも平気な顔をしていたあいつが頭に浮かぶ。

「あれ、茉咲ちゃん?」
「っ、しゅ、春ちゃん!」

慌てて足を止めたけど、またすぐに動かした。

「春ちゃん!あいつが二年生に呼び出されたの!私、行かなきゃ!」
「え?あいつ?…て、ちょっと茉咲ちゃん!?」

春ちゃんの呼び止める声が、やけに遠くに聞こえた。












「っはぁ…!」

人気のなさそうな場所を考えて走ると、裏庭に出た。

「アンタ目障りなのよ!」
「一年の癖になに浅羽くんたちと仲良くしてんのよ!」

女の人の罵声が聞こえてきて校舎の陰からそっと覗くと、十人程の先輩に囲まれたあいつがいた。

「ちょっとアンタ!何とか言ったらどうなのよ!」
「んー…。何とか言ったらなにか変わるんですか?センパイ。」

「ばかっ、そんなこと言ったら…!」

目に見えて分かる温度差に飛び出そうとしたら、


パシン―ッ!


乾いた音が空気を揺らした。

振り切られた二年生の右手と、その手に伴って下に向けられたあいつの顔。

「…先に手ぇ出したの、センパイですからね?」

上げられた顔は相変わらず無表情で、冷えた空気に思わず一歩後ずさる。

「あーあ、殴っちゃったよ。」
「茉咲は危ないからここにいなね。」
「え…、」

そんな私の横を、逆に歩を進める影が二つ、通り過ぎた。

悠「はいはい、そのへんにしておきましょうか。」
祐「お楽しみ中スミマセンね。」

「「あっ浅羽くん!?」」

あいつの双子の兄だった。

「…あれ。悠太兄ぃに祐希、なにしてんの?」
悠「なにしてんの?じゃないよ…。春に呼ばれて来てみれば。」
祐「茉咲が慌てた様子で走って行ったってさ。」
「春ちゃんに佐藤さん?」

三人が話している横で、すっかり牙の抜けた先輩たちがコソコソ話している。
どうせまた悪口だろうけど。

「…ちょーっとセンパイ方?」
「な、なによ?」

それが聞こえたのか双子と話していたあいつが先輩に話し掛ける。
また一気に空気が冷たくなった。

「私って結構地獄耳なんですよねー。だから聞きたくなくても聞こえちゃうんですよ、人の悪口とか。…茉咲のこととか。」
「そ、そんなの私たちには関係ないじゃない!」
「そうですね、関係なければ別にいいんですけど聞こえちゃったから念の為。…茉咲に手ぇ出したら、絶対許しませんから。」

空気がピリピリする。

悠「なにしてたか知らないけど用が済んだなら早く行った方がいいよ?」
祐「…この子怒ると怖いから。」
悠「それに…、あんまり妹に手出されんのもいい気しないしね。」

冷たく言い放った双子に、先輩たちは驚いた後逃げるように去って行った。












悠「あーあー、口から血ぃ出てる。」
祐「ダメだよ殴られる時は歯ぁ食いしばんないと。」
春「そういう問題じゃないでしょう!」

双子があいつを覗き込む。
後から駆けつけた春ちゃんも心配そうにハンカチを出した。

「大丈夫だよ、少し切っただけ。」

やんわり押し返されたハンカチに、春ちゃんは困った顔を見せる。

春「でも…、」
「ほんと大丈夫だから。」
茉「あー!もうっ!」

焦れったくなって自分のハンカチを無理矢理口元に押し付けた。

「ちょ、佐藤さ…!?」
茉「いーからじっとしてなさい!」
「はい…。」

大人しくなったのを見計らってそっと血を拭っていく。

「あ、あの、佐藤さん?」
「…なによ。」
「えーと、あの…。ありがとう。助けてくれて。」
「助けたのはあんたのお兄さんでしょ。…私には何も言わずにいなくなった癖に。」
「え、だってあれは私への呼び出しだったし…。」
「それでも!普通言ってくのよ!心配するじゃない!」
「心、配…してくれたの?」
「ぁっ……、い、一応、ね!急に騒がしいのがいなくなったらペースが乱れるでしょ!」

墓穴掘ってしまった…。
恥ずかしくなって顔を背けた。

「…ねぇ、佐藤さん。」
「…なによ。」
「あの…、茉咲、って呼んでいい?」

視線を戻すと、伺うように私を見る目にぶつかる。
…今更、なに言ってんの。

「ぷっ、」
「…え、」

きょとんとするのを見て言ってやった。

「さっき、思いっきり呼んでたじゃない。」
「あれ、そうだっけ…。」

おかしいな、と頭を掻く姿はとても誰かさんが言う“超絶美女”なんかじゃなくて。

「仕方ないわね、好きに呼んでもいいわよ…心結。」
「!!」

こっちも仕方ないから、名前で呼んであげる。

「き、き、聞きました!?ねぇ!悠太兄ぃ!祐希!いまっ、今、佐藤さ、じゃない、茉咲ちゃんが!心結って、心結って呼んでくれた!」

はいはい、とか、良かったじゃん、とか返す双子になかなか興奮の醒めない心結。

「う、嬉しい!嬉しいです!」
茉「そう思うならもっと表情に出しなさいよ。」
「え、出てません?今物凄く笑顔なんですけど。」
茉「全く。」
「えぇ〜。」

仕方がないからこの騒がしい子に、もう少し、付き合ってあげようと思った。







END.

(守るべきものは、プライドなんかじゃない。)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ


©フォレストページ