夢の世界へいざ行かん!

□番外編 愛しのあの子
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「Hi,JAPAN. I'm home.」

青い空を見上げた少女が懐かしそうに呟いた。












「ねぇ悠太、母さんたちどっか行ったの?」

今日は休日。
遅く起きてきた祐希が、ソファーで本を読んでいた悠太に問い掛ける。

「あぁ…、“愛しいあの子のところに行ってくる”って。」

顔を上げずに指差した先には、テーブルに乗せられた二枚のメモ用紙。

「なにそれ…。」

怪訝に思いながらもそれを覗き込むと。


“愛しいあの子のところに行ってくる!!父”

“お父さんを追いかけます。母”


「……………。」
「……………。」

ペラリ、本をめくる音が響く。

「…ねぇ悠太。」
「なに。」
「浮気した挙げ句、修羅場?」
「ど修羅場だね。」

やっと顔を上げた悠太の顔はいつもと何ら変わりない。

「離婚かも。」
「悠太はどっちについてく?」
「母さんかな。心配だし。」
「じゃあオレも。父さんヤダし。悠太と一緒がいいし。」

淡々と進められていく会話にツッコミ役はいない。










「ただいまー。」

「「あ。」」

玄関先で聞こえた女性の声に、二人はコソコソと話し出す。

「母さんの声じゃないね。」
「ただいまってことはアレ?もう離婚再婚済ませてきましたってこと?」

二人が座っているソファーはドアに背を向ける形で置かれており、見えぬ相手にじっと耳を済ませる。

「あっ!」

足音が二人のいるリビングの入り口で止まる。
女性の声が響いたかと思うと、いきなりドンッと背中に衝撃を受けた。

「「!」」

いくら新しくお義母さんになったからって馴れ馴れし過ぎやしないか。
そう思った二人だったが、次の声で今までの馬鹿らしい考えが全て吹っ飛んだ。

「悠太兄ぃ!祐希!」

自分を兄と呼ぶ声に覚えがあった。

「…あれ、心結?」
「また呼び捨てにして…。」

ソファー越しに抱きつく正体を顔を動かし確認した。

「ただいま、悠太兄ぃ、祐希。」

ぎゅーっと抱きつく妹に、少し笑ってため息を吐く。

「コッチ、おいで。」

悠太が祐希との間を軽く叩く。

「て、こら。」

心結が座ったのは悠太の膝。
向かい合わせで再びぎゅーっと抱きつく。
そんな心結に悠太は小さく苦笑し、サラサラの髪をゆっくり撫でた。

「髪、伸びたね。」
「ん。」
「どうしていきなり帰国?」
「…………。」
「ん?」
「………ゆーたにぃと、ゆーきの写真、楽しそうだったから。」
「…相変わらずの寂しがりだね。」
「……ちがうも、うわっ!」

悠太に抱きついたままだった心結にドンッと衝撃がくる。

「ミュウばっかずるい。オレもゆーたに抱きつきたい。」

心結ごとぎゅうぎゅう二人に抱きつく祐希。

「ちょっと祐希、苦しい。」
「ミュウはよくてオレはダメなの?」
「そういうわけじゃ…。」
「じゃあいいじゃん。」
「…………。」

全く、下の子は手がかかる。
悠太は盛大にため息をついた。









「え、じゃあ心結、穂稀高校来るんだ?」
「うん。合格した。」

父と母も帰ってき、とりあえず横に並んだ三人。
両親も正面のソファーに座っている。

「もおビックリしちゃった。向こうの高校止めてこっちくるだなんて。」
「いやしかしさすが我が娘、やることが早い!事後報告だなんてな!」

うふふだのワッハッハだのと笑う両親に双子は呆れた。

「いやいや、そういう問題じゃないでしょうに。」
「これだから子どもがしっかりするんですよ。」

小さく呟いた両端の兄に、苦笑する妹。
自分が引き起こした事態だが、傍観する分には面白い。

「そーゆう訳なんで、明々後日から後輩です。よろしくお願いします。」
「うん、何かあったらおいで。」
「あー、可愛い女の子いるかな?」
「ケバケバで香水臭い子たちならたくさん。」
「わー、楽しみ!」
「…キミたちの将来が心配だよお兄ちゃんは。」

こうして、男だらけの高校生活に一癖ある華が添えられた。







END.

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