物語部屋T

□サンタクロースには御注意あれ
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 街は冬にも関わらず人で溢れかえり、仕事が終わり家で待つ者のもとへと急いで帰る者、仲睦まじく寒さを感じさせない程に甘い雰囲気を醸し出し寄り添って歩く者、それが普段の街並み以上に浮かれているように思えるのも致し方無い事である。
 
 世はクリスマスイヴ、誰もがその雰囲気を味わい、イルミネーションで外を飾る店も家族連れや恋人達によって大繁盛をしているようだ。
 
 扉が開けばそこから漏れ出すようにクリスマスソングが聞こえ、賑やかな声も混じりイヴを楽しむ様子が伺える。
 
 その様子を塾帰りに横目で見やりながら一人、ルルは自宅に向かう。
 
 今夜は珍しく両親が休みを取れたと聞き、楽しみで仕方なかった。
 
 毎年、家族でクリスマスイヴを過ごせないので一日早くか、遅くにするのが常であった為に急いでいる筈の足は若干スキップが混じっている。
 
 クリスマスイヴを家族で過ごす、けれどその中に一人混じっている隣人の存在が更に心躍らせる。
 
 両親には未だに秘密にしている、恋人の存在だ。
 
 
 今日は早く仕事が終わりそうだから、最初からいられると思うんだ。
 
 
 この一言を聞けたルルは嬉しさのあまり、飛びついて押し倒していた。
 
 長身の恋人を押し倒す程のパワーに溢れているルルはそのまま抱きついて、甘えるような甘い声でその名を呼び、大好きと呟く。
 
 俺もだよと言葉と共に抱き寄せられ、そのまま数回口付けを交わしていたら電車の時刻に間に合わず、どうにか恋人の運転で遅刻を免れた。
 
 付き合い始めて三年目の・・・高校生活最後のクリスマスイヴだ。
 
 これが特別な感覚がするルルにとって家族は勿論、恋人であるアルバロと共に過ごし楽しい思い出にしたいと考えている。
 
 高校三年生、受験シーズンもピークを迎え周囲はピリピリと神経質になっている。
 
 ルルも受験生であるが、あの空気は苦手だわとあまりこっていない肩を揉んでみる。
 
 ちょっとの息抜き、美味しいケーキとチキン、御菓子を食べながらジュースを飲んで、忙しい両親と時間が合わない為に色々と話し足りないもどかしさを消化するのだ。
 
 明日はノエルの誕生日だし、二日続けてケーキが食べられるわ!と想像するだけで御腹が空いてくる。
 
 スキップがいつの間にか駆け足になっていた。
 
 時計を見やればあと15分で7時半、この調子ならたぶん間に合う筈だ。
 
 5分でも遅れればアルバロが迎えに行くと言っていた事を思い出し、塾鞄とは別に持っている紙袋を確認する。
 
 少し重みがあるそれは、悩みに悩んだ物だ。
 
 一つは父親に、一つは母親に、そしてもう一つは大切な恋人の為に選んだプレゼントを更に抱え込む。
 
 これを選ぶ為に今日は一人で帰宅していたのだ。
 
 ルルを溺愛する恋人、アルバロに塾の送り迎えをされているのだが、言葉を濁しながら今夜は一人で帰る、と伝えた時に些か不満そうにしていたが、濁したところでその理由が分かる故に7時半迄に帰ってくるようにと言った。
 
 遅刻をすれば迎えに行く、と云う言葉にルルは5分ぐらい平気だと思っている。
 
 それよりも今はこのプレゼントを渡したときの反応を考えるだけで嬉しくなる。
 
 喜んでくれるかな、驚いてくれるかなと胸躍らせて帰宅をするルル。
 
 三人の顔を想像すれば自然に笑顔になってしまう。
 
 早く帰らなくちゃ、皆が待っているもの。
 
 急ぐ足を更に心が急かし、駆け足は全速力へと変わっていた。
 
 
 
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