物語部屋T
□好きと云う言葉は凶悪
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そのゲームはアルバロの提案から始まった。
「ねぇ、ルルちゃん。
たまにはさ、ちょっと面白いゲームをしない?」
夕食を終えて廊下を並んで歩いていると、ニコリと笑みを浮かべて語りかけてくる目の前の存在は碌な事を考えていないと今までの経験で分かっているルルは、胡散臭そうな表情で蜜色の瞳を細めてみせる。
「何かな、その嫌そうな顔」
「そんな顔はしていないわ。
唯、また変な事を考えているのかしらと思っているだけよ」
「酷いなぁ、俺はもっとルルちゃんと仲良く楽しく恋人らしくしたいなって言っているだけなのに」
それが何故、ちょっと面白いゲームに繋がるのかが理解出来ないと更に蜜色の目が細められる。
それを見やっているアルバロは両腕を広げて、首を竦めてみせる。
「ルルちゃんは今のままで十分・・・・とか言うのかもしれないけどさ、俺はもっとルルちゃんと仲良くしたいんだよね」
「・・・・・・・・」
だから何が言いたいの、そう見やれば未だに笑みを浮かべ続けるアルバロが何とでも無いと云う口調で言葉を続ける。
「まぁ、ルルちゃんはあんまりゲームが上手じゃないよね」
一言余計だと言いたいけれど、それは間違ってはいないので小さな唇を尖らせて抗議を示す。
別にゲームは楽しめれば良いのよ、と少しばかり拗ねたような声が聞こえた。
「だからさ、ベターカードで・・・・賭けをしない?」
「賭け・・・・?」
そうそうと数回頷き、どう?と促してくる。
「賭けるって何を賭けるの?」
私、アルバロが欲しがりそうな物なんて持っていないし・・・お金とか宝物も無いし、賭けられないわよ?
小首を傾げ、真っ直ぐにアルバロを見やるルルに小動物みたいな仕草だと笑みを浮かべてしまう。
こう云ういかにも愛らしい仕草が様になるのだから、目の前の存在は知らずに人に好印象を与える。
それにこの生まれ持った気質もあり、初めて会った人物にも警戒されないだろう。
それが知り合いともなれば、可愛がられるにもある意味、必然なのかもしれない。
だからと云って、それを羨ましくは思わないが喜ばしい事ともアルバロには思えない。
つまり、気に入らない部分であった。
「俺が大事な恋人に対して、そんな金銭を奪い取るような事を言うと思ってるわけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうじゃなければ良いわ」
「ちょっと、その間は何なのさ」
体を屈めて覗き見てくるアルバロだが、顔を背けられた事で視線は交わらない。
それを不服そうに見やるマゼンタの瞳が徐々に近づいていた事に気づかなかったルル。
「きゃっ!」
頬にひんやりとした柔らかな感触を感じれば、それは何かと見ずにも分かるほどになっているルルは顔を真っ赤にさせて蜜色の瞳を見開き、すぐ目の前で不服そうにしていた筈のアルバロの楽しそうにしている表情を見やる。
「ちょ、ちょっとアルバロ!
きゅ、急にし・・・してこないで!!」
そっか、確かキスは許可制だったねとわざとらしく呟きながら再び顔を近づけてくるので、歩みを止めて手を突っぱね、それを阻止しようとする。
けれどそれは伸ばした手を捕まれてしまい、引き寄せられてしまった事で阻止する事は出来なかった。
「どうして嫌がるのさ。
俺達、こう云う事をする仲でしょう?」
「こ・・・こう云う事をする仲って・・・・」
「ん?違うのかな?」
歩みを止めた事で更に引き寄せようとするアルバロに対し、必死にもがく姿は明らかに恋人同士ではなく、たぶらかそうとする男に対し拒絶を見せる少女の姿だ。