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最初こそアルバロの背後に隠れ様子を見ていたルル。
蜜色の大きな瞳を瞬かせては、じっとビラールを見つめた。
ニコリと微笑まれるとパチクリとさせて、アルバロを見上げる。
どうしたら良いの?と問うかのような、己を擁護する存在に答えを求める幼い行動。
アルバロは何も言わず、再び視線はビラールに戻る。
会話らしい会話も無かった夜であった。
それからビラールは通うようになった。
どうしてまた来たのだと睨むように見てくるマゼンタの瞳に恐る事も無く、
ルルに会いに来たのだとそれだけを言った。
最初の頃こそ様子を見るかのようにビラールを見つめていたルルであったが、
アルバロの背後から徐々に隣に移動し、アルバロの胡座の間に座るようになり、
少しずつ自らビラールへと近づいていった。
ルルから近づいていくのであって、ビラールは一切近づいてはいない。
約束は守られていた。
パタ、と動く白い尾に興味を持ち始めたルルが、
マジマジと見つめていると床に滑らせるようにしてわざと動かす。
右へ、左へと動かせば蜜色の瞳も右へ左へ。
次第に瞳だけではなく、首を動かすようになった。
長い故、アルバロの胡座の間に座るルルの手の届く場所に白い尾を伸ばし、尾の先だけを器用に動かせば、
それはまるで尾とは思えない細やかな動き。
見ようによっては別の愛らしい動物にも見える。
すると蜜色の瞳が次第にキラキラと輝き始め、幼さの残る白く小さな手が伸ばされ、むんず、とばかりに握りしめてみた。
アルバロの尾とは違い、毛は細く、ルルの毛質ほどではないが柔らかい。
掌を擽るように尾が動くので、この時初めてルルは笑い声を上げた。
それがルルがしていた興味への我慢の限界の合図だったのだろう。
今ではアルバロの胡座の中にいずに、ビラールのすぐ傍で尾にじゃれついている。
捕まえようとすれば絶妙な加減でかわされ、手を伸ばし再度捕まえようとするとふわりと避け、
ピンクの髪に撫で付けるようにして触れて頬を撫でる。
くすぐったいと言いつつも笑い声を上げ、その心地良い感触の尾を離さないと抱きついて、
桜色の小さな唇が開き甘噛みをしてみたりと遊んでいる。
毛が乱れても、ルルの唾液に濡れてしまっても、何をされても怒らず、叱る事も勿論しない。
穏やかに笑みを浮かべ、まるで幼い者を構い、遊ばせていると云う様子である。
乱れてしまった毛を舐める様子に、アルバロへの毛繕いに慣れているのだろうと理解したビラールがふと目の前に視線を向けた。
パタ、パタ、と不機嫌そうに黒い尾を振る。
マゼンタの瞳はビラールでは無くルルを映していた。
常であれば幼い頃と変わらずに己の尾にじゃれつき、甘えてくる。
けれど今、ルルが夢中なのは己の尾では無くビラールの尾。
ルルの小さな尾がパタパタパタと動く様子は獲物を捕まえて喜ぶ幼い狼のようだ。
はっきり言って、アルバロはそれが気に食わない。