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【赤い靴】
 

 トゥシューズ、色は赤が良い。明る過ぎず、暗過ぎない赤。
 
 踵から付け根、ふくらはぎ迄を暗い紅のリボンが幾重にもクロスされて、白い肌が更に引き立つ。
 
 そんな靴を履かせてやりたい、と思ってわざわざ用意した。
 
 黒い箱の中にしまい込み、包むリボンも黒が良い。
 
 黒の中から出てくる鮮やかな赤、意識を切り替える色だ。
 
 
「と云うわけだからさ、履かせて良い?」
 
 
 いつ言おうかと様子を伺い、一週間。
 
 その間、俺の中で日々増していく高揚感が疼いて仕方なかった。
 
 白に赤が重なる、それを自分の女で、なんて興奮するんだろう。
 
 
「・・・どうして?」
 
 
 説明もろくにせずに、コレと差し出した箱。
 
 リボンを解き、開けさせて、そこで俺が靴を取り出す。
 
 ソファーに座らせ、俺は床に膝立ちをする。
 
 
「君に似合うと思ったから」
 
 
 大人はそう云う事をしたがるの?と首を傾げる。
 
 ルルから見て俺は大人、らしい。
 
 七歳も上は大人になるのだろう。
 
 
 大人ではないが、子供でもないルル。
 
 素直にそんなルルが可愛く思えるし、憎らしくもなるし、愛しくもなるし、嘲りたくもなる。
 
 それ以上に興味がそそる、それが俺の恋人。
 
 誰よりも大切にしたくもなる相手。
 
 
 突き放して泣かせて、堕落させて、駄目になった時に手を差し出してやりたくなる女。
 
 
「駄目駄目駄目ぇっ!」
 
 
 了解を得ずにニーハイソックスを脱がせようとすると、悲鳴じみた声を上げられる。
 
 
「何が駄目なの?靴を履いて欲しいだけなんだけど」
 
 
「靴下の上からにして!」
 
 
「それじゃあ意味無いんだよ」
 
 
 爪先を引っ張れば伸びて、スルスルと簡単に脱がせられた。もう片方も同様に。
 
 白く薄い肌は日差しを知らないとばかり、太腿には薄っすらと血管の色が見える。
 
 頭上から、いまだにキャンキャンと喚く声が聞こえるが気にせずに踵を俺の膝に乗せた時、気づく。
 
 
「・・・・爪にマニキュア塗ってるんだ」
 
 
 意外だ、と云うより予想外だ。
 
 てっきり何もしていないと思ったから。
 
 白い素足を彩っていた色は、良く知る色。
 
 不器用なルルがはみ出ないように懸命に塗ったのであろう。
 
 
「・・・・・・・・これしか良い色が無かったんだもの」
 
 
 そう言って、白い頬を赤らめる。
 
 あぁ、それは俺が靴を履かせてから見るであろう表情であっただろうに。
 
 恥ずかしそうに眉を下げて、今にも泣き出しそうな顔で呟いた。
 
 
「綺麗に塗れてるね、良く似合ってる」
 
 
 靴下を脱がされたくなかった理由、思わぬ形で俺にばれてしまって消えて無くなりたいと物語っている。
 
 慰めるつもりではなかったが、思った事を言葉にしたら驚いたようだ。
 
 
「靴・・・・良いの?」
 
 
 居心地の悪さを感じたのか、場を紛らわせようとしたのかもしれない。
 
 何も言わず、足の爪を彩る色を見つめ嬉しくも落胆もしていた。
 
 俺の色だとルルが言うマゼンタ色に、先を越されていたなんて。

 
 

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