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□着せ替え人形の姫と偽者の王子の御伽話
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 ふと、男が視線を向けた先には天井から吊された長いレースが被さった、天蓋のベッドがあった。
 
 何の疑問も浮かべずに、脚が独りでに歩み始める。
 
 それは吸い寄せられるかのように。
 
 ベッドの縁で立ち止まり、レースを退けて覗き込めば、そこには一人の少女が愛らしい寝顔を浮かべながら午睡をしていた。
 
 ふわふわでくせのあるピンク色の髪が枕に流れるようにして広がっている。
 
 夜から朝、そして昼間迄ずっと眠っているのか、柔らかなガーゼ生地で出来た薄着の寝間着を着ている。
 
 小さな桃色の唇から漏れる小さな寝息。
 
 少し背を丸めるようにして両腕を顔元で重ね、侵入者である男の存在にも気付かずに眠っている。
 
 この娘が噂の魔女か?・・・・いや、違うだろう。
 
 魔女と云うよりも、囚われの姫のようだ。
 
 まだ幼さの残る、この少女の存在を男には理解出来ない。
 
 眠り姫のようだ、そんな事を考えていた男がマゼンタの瞳でじっと見やり続けていれば、
 その視線に漸く気づいたのか・・・・長い睫毛が揺れ、寝息が止まる。
 
 少しずつ開けられ始めた瞼、まだ眠気の残る気怠げな蜜色の瞳が何処を見るわけでもなくベッドの縁あたりに視線を向けている。
 
 しかしその先に見えた存在に気付き、ゆっくりと視線を向ければ重なる視線。
 
 大きな瞳が、男を捉えた。
 
 
「・・・・・?」
 
 
 数回瞬き、プーペさん?と甘い声が呟く。
 
 それには答えず、男がニッコリと笑みを浮かべた。
 
 
「おはようお姫様。それとも君が魔女なのかな?」
 
 
 人の良さそうな声音と笑顔。
 
 怪しい姿をしていても、多少は誤魔化せるだろうと挨拶をすれば、僅かに首を傾げるものの体勢を変えずにおはよう、と笑顔を向けた。
 
 危機感も何もない、少女らしい笑顔だった。
 
 
 

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