*歌歐*

□秋の田の・・・
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――どこかで声が致しました。





たった今、「ミヤコ」という名の巨大な戦艦が土煙の中に沈んでゆきます。
私はカンナ村の林にある小屋の中で米を炊いていました。
今年の新米をあの方に食べていただくために。
あの方はいつも美味しそうに握り飯を食んでいました。
この村の米は美味い、と私に向かって微笑むたびに、私はとても幸せな気持ちになったのです。
 あの方は村を、米を護るといって、サムライ様方とともにミヤコを討ち取りにいきました。
帰ってきたら、また美味い米を食わせてくれと言い残して。





――「米が食いたい」、そう聞こえた気がしました。





 あの方が、終に帰っていらしたのです。
私はすぐに村里まで降りて参りました。
あの方に一番に米を食べていただくために。
もう一度、あの笑顔を見るために。








――背中にぶら下げていたのは、稲穂がよく育つようにと願いをかけたてるてる坊主の布ぐるみでした。






 
 私は、そのときの気持ちを忘れることが出来ません。







村の全てが見渡せる高い崖の上に、四つの砂山とのぼりが立ててあります。
二つ目の、てるてる坊主がぶらさがっている砂山におにぎりを供えるのは私の日課となりました。






――秋の田の かりほの庵のとまをあらみ
   わがころもでは 露にぬれつつ――






 私はそこで毎朝、あの方とともに白米を食むのです。







*終*
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