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□もしもの話をしませんか
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 もしもきみがほんとうに『完璧』だったなら、
 ぼくは今ここにはいなかったんだろうな。




  もしもの話をしませんか




 考えたってどうしようもないこと、過ぎてしまって戻れないこと。
 わかっていても、ふと考えてしまう『もしも』のこと。

 思わず口に出してしまった言葉を、きみはしっかり拾っていた。


「どういう意味だ?吹雪」

「ううん」


 あわてて首を横に振ったところで、もう遅い。
 蛇口の栓がきゅっと音を立てて締まる。

 こうなったらきみは、豪炎寺くんは、自分が納得いくまで動かないんだ。
 ああ、訝しげな目をしてる。それちょっと怖いんだけど。
 これは堪忍するしかないな、言ってしまったぼくが悪い。


「もしもきみが一度もキャラバンから離脱しなかったら、ってこと」

「今さらの話だな」

「だけど、それなら別のストライカーを探す必要はなかったよね」


 我ながらほんとうに、くだらないことを言ったと思う。
 急にこんな話されたらだれだって困るに決まってる。
 また呆れられちゃうかな、そう思ってちらっと顔を上げると、


「……どうして笑ってるの?」

「いや、変なことを心配するんだなと」

 
 なぜか口元に笑みを浮かべる豪炎寺くん。
 それは諭されているような、ちょっとせせら笑っているような、
 まるでぼくがあまりにも現実離れしたことを言ったみたいだった。


「『もしも』俺がキャラバンで戦い続けていたって、必ず吹雪には出会っていたはずだ」

「どうして?」

「俺たちは地上最強のチームをつくる旅をしていたんだ」


 その言葉の意味をつかみかねて、ぼくは黙ってしまう。
 

「結果的に俺たちは宇宙人に勝った」

「……うん、そうだよね」

「だがあのとき戦ったメンバーが仮に最初から揃っていたとしても、俺たちはジェミニストームにすら勝てなかっただろう」


 宇宙人が来た時点で、最終的にジェネシスを倒したメンバーがそろっていたら。
 ぼくや、綱海くん、立向居くん、木暮くんたちが雷門中にいたら?
 あのときのぼくが、そのままストライカーだったら?


「新しい『もしも』の話だね……」

「そうだな。……俺はあの旅から長い間離れていたが、チームの様子は人づてに詳しく聞いてきた」

「土方くんや、刑事さんに……」

「ああ。そして今はこう思っている。もしもこの仲間たちのうち、たったひとりでも出会えなければ、地上最強のチームは生まれなかったんじゃないか、って」


 豪炎寺くんも、『もしも』なんて考えたりするんだ。
 しかもぼくが考えていたのより、ずっといい『もしも』だ。
 

「そうやって言いだすと、キリがないね」

「例え話っていうのは、そういうものだ。違うか?」

「違わないけどさぁ」


 自然と、笑い声がこぼれてしまう。
 

「だから俺たちは吹雪に出会っていたと思う。でないと困る。なんなら同じことを円堂に聞いてみたらどうだ?」

「ふふ、遠慮しとくよ。もう十分だ」




 そう、『もしも』の話にはキリがない。
 考え出すと止まらないなら、ちょっとでも楽しい方向の『もしも』がいいね。
 
 それでもどうしても不安になったら、誰かの『もしも』の話を聞こう。
 


「あ、じゃあ、豪炎寺くん。もうひとつ『もしも』の話」

「なんだ?」

「もしも夕香ちゃんにボーイフレンドが」

「却下だ。さあ、グラウンドに戻るぞ」


 
 最後まで言わせてくれなかった。
 もしも、なんていう間もなく、論外だったかな?
 べつになにを期待していたわけでもないんだけどね。

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