幽霊相談事務所
□私と老婆と青年と
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「きゃぁっ! ――いたたた……」
強打した箇所を押さえつつ前へ視線を向けると、もくもくと埃の煙の中から老婆が現れる。先程のおどろおどろしい面差しはなく、ニヤニヤとした悪戯を仕掛けた子供のような笑みを浮かべていた。
『ひひっ……だって何度やってもお前さんが驚いてくれないものだから。―――いやいやそれにしても閉じ込めるなんて酷いねぇ、年寄りはもっとデリケートに扱って欲しいもんだよ』
額を擦りながら、老婆はぶちぶちと文句を漏らす。さっき勢い良く扉を閉めたせいで、額を打ってしまったようだ。
「! あ、えっと……すみません……」
「年寄りだけじゃなくて、ここの家具の方もデリケートに扱って欲しいんだが。……はぁ、ドアノブの次はクローゼットか」
もう自分でやる……と言いたげに、彼は若干ふらつきながらも自らクローゼットから衣服を引っ張り出す。そしてひしゃげた蝶番に目を向ければ魂が抜けたようなか細い溜め息を吐く。
「あう……ドアノブの件は本当にすみません……。後でドアノブ探しに行きます……」
「もう良いって。元々壊れかけてて修理する予定だったから」
足をダルそうに引き摺りつつも彼は元の場所に戻り、くるりと私から背を向けると、ぷち、ぷち、と上着のボタンを外し始める。