幽霊相談事務所
□事の起こり
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『……、ここまで来ればもう大丈夫か』
背後を振り返りもう霊達が追ってきていない事を確認した後、ヒイラギ君はようやくその場で足を止める。
私を抱えたままかなりの距離を走ったというのに、彼の息は全く切れておらず汗もかいていなかった。
まぁ、今は幽霊の状態だから当然か。
『……?』
私の視線に気付いたのか、ヒイラギ君がふと此方を見返してくる。ハッと目が合ったその瞬間、急に今の状況に対しての恥ずかしさが沸々と込み上げてきた。
すっぽりと彼の腕に収まった自分の身体。背中と膝裏から伝わってくるヒンヤリとした体温。そして、目の前にはかつて無いほど至近距離にある彼の顔。
同級生は勿論、お兄ちゃんとでさえこんな状況になった事は今まで無かった訳で……
(……ぁ、ぅ)
ぷしゅううう……っと頭から湯気が噴き出す。日が照っている訳でもないのに顔が火照って熱い、今なら頭の熱を利用してお湯が沸かせられそうな勢いだ。
動揺している事を悟られないよう、私はそっと彼から顔を反らした。
「あー……。あのー、ヒイラギ君。さっき追い掛けてきた人達は一体……」
『……怨みや憎しみを持った人達の生霊や、非業の最期を遂げた人達の霊。世間で言われる怨霊というもの』
そう言いながらトン、と地面に降ろされる。頭に付いた葉っぱや木屑を軽く払いつつ私は聞き返した。
「……怨霊?」