上下関係元

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大好きなのに


「藤井ー!!」


全く届かなくて


「何ー?」


先生が見つめるその先に、私は映っていなくて。


「何ー?じゃないだろ!!今日お前授業サボったらじゃないか!!」

「だからなんだよ」

「っ、お前!!」


廊下で男子生徒に怒鳴っている赤井先生を見て、よく思う事。
そんなの、…当たり前なのに。


「次からはちゃんと出るように!!」

「へいへい」

「っお前なぁ!!?」

「分かったから怒鳴るなよー」

「ッ、藤井ー!!!」


生徒を楽しそうに怒っている。
怒っているけど、優しさもあって。
そんな先生が、私は大好きだった。
もうこの先、先生しか愛せないくらい。

でも、先生の目線はいつも違う子で。
私に向けられる時なんか、ほんの一瞬で。
その一瞬が嬉しいけど、とても切なくて。

好き過ぎて、先生に対する想いが強過ぎて、
だから、こんなにも苦しくなっちゃうし、悲しくなっちゃう。


「……先生」


藤井への用が済むと、再び廊下を歩きだした先生。勿論行き先は職員室。
私に背中を向けて、生き生きと歩いて行く。
その姿は、私に興味なんかないって言ってるような感じで。

苦しくて、溜まらなくて―…。


「先生…」


そう呼んでも、先生は振り向くはずもなくて。

その先生の背中を見て、また苦しくなって。
情けない。こんなに想っているのに、何も出来ない自分が。


「……ッ」


どうしてだろう。
どうして、涙なんか流してるんだろう。

やっぱり人前で泣くのはどうかと思い、小走りで人気のないトイレへと駆け込む。


「ッ、せんせェ…―ッ、」


拭っても拭っても止まることのない涙。
トイレットペーパーで涙を拭き、深呼吸をして個室を出る。

ヤバイ、もうそろそろチャイム鳴っちゃう。
しかも、よりによって次は英語だ。
先生が担当する教科だ。

水道の蛇口をひねって水を出す。
その水を両手ですくい、ピチャピチャと顔を洗う。

前の鏡で自分の顔を見、ペチンと両頬を叩いた。


「よしっ…」


―キーンコーンカーンコーン....


あ、ヤバッ

急いで走り、教室へ行こうとする。
が、私の足は階段の途中、踊り場で止まってしまった。


…英語に、出たくない―。


そんな想いが生まれてしまっていた。
普通なら、大好きな先生の授業だから、嬉しいはずなのに。いつもなら、楽しみで仕方がないのに。

なのに、どうして―っ?


「ッッ…苦しいょ」


そのままそこへとしゃがみ込む。
再び出てきた涙を拭う事もなく、両手を膝の上で組んでその中に顔を埋める。

声を押し殺して泣く。
他の先生にばれちゃ、厄介だし。


「ッッ…ッ―…」


自分の鼻水をすする音だけが聞こえる。
もう後12段階段を登り、廊下の突き辺りまで行くと、大好きな先生に会えるのに。
なのに何故か、それが嫌で。出来なくて。

苦しくて、胸が痛くて。
どうしてだろう。
先生は結婚してる訳でもないし、彼女がいる訳でもない。

なのに先生の目は、愛しい子を想うような目でいつもあの女子生徒に向けられていて。
気付かない訳がない。
先生が大好きな子が、気付かない訳が。


「黄架」

「ッッ?」


突然上から言葉が降ってきた。
誰―?


「あ、大井先生」

「どうしたの?大丈夫?」


英語担当の女教師、大井先生だった。
大井先生は赤井先生の相棒みたいなもので、授業中は必ず横に着いている見習い人。

そんな先生が、どうして此処に?


「しんどいの?」

「っ、違います…」

「じゃあどうして泣いてるの?」


何でそんなに質問攻めするの?
そう言いたかった。

でも、言えるはずもなく。
どうせ赤井先生に私がいないから探して来てって頼まれて、ノコノコやって来たに違いない。


「ほっといてくれませんか?」

「どうして?」

「今は一人がいいんです」


プイッと顔を背けると、大井先生は私の腕を引っ張り、そんな事は出来ません。と言って私を引っ張りながら教室へと連れて行った。




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