上下関係元

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「以上、生徒会からのお知らせでした」



体育館に響き渡る先輩の声。
少し割れていて、どっちかと言うと低め。
そんな声を聞きながら、私はやっぱり
赤井先輩が好きだ。と思った。

この季節、最近立春が過ぎたくらいの時期。
まだ外は寒い。春だというのに…。
それに、また花粉がやってくる。
マスクを手放せない時期が…。



「黄架さん」


「っ、はい!」



マイクで話し終えた赤井先輩は、笑顔でこちらに向き、私の名を呼ぶ。
返事をすると、 次、黄架さんの番 と言って、私の横の席に座った。

あ、そっか…。

1年生だと言っても話す事ぐらいある。
3年の先輩たちは後期受験が近いため、生徒会や部活、その他色々のリーダーは全て2年生に任される。

そして、その2年の生徒会長が私の好きな人、
赤井勇介先輩なのだ。

先輩は、優しくて頭がよく、運動もできて性格がいい。
だから、惚れてるのは私だけじゃないと思う。

ライバルは多いだろうな…。



「えっと、私からは」



私が言わなければいけない事。
卒業式の事に終業式。
入学式から新学期の流れ。


長々と喋ってから一礼をし、
赤井先輩の横の席に座る。

ホッと胸を撫で下ろすと、先輩と目が合い、
ニコッとほほ笑まれた。

ドクン・・・

ますます先輩に惚れていくばかりだ。



「でわ、全校集会を終わります」



校長の一言で解散する。

皆各自、自分たちの教室へ戻り、1限目が始まる。



「黄架さん」


「あ、はい」



舞台の上の椅子や机を片付けていると、
後ろから赤井先輩に声をかけられた。

振り返ると、大好きな笑顔。



「どうしましたか?」


「お疲れ様」



ほほ笑みながらそれだけ言うと、
そそくさに椅子を片付け始めた。

……優しいな。

あんな笑顔で『お疲れ様』なんて言われちゃ
大半の女子は鼻血出して倒れちゃうよ。
王子様みたいな……
まぁ、好きな人が見たら。だけどね。



片付けが終え、私達も各自の教室に帰る準備をする。
先輩は2階、私は3階のため、
残念ながら階段でバイバイだ。

体育館の靴箱で靴に履き替えていると、
赤井先輩が横にやってきた。

パッと横を見ると、先輩の横顔が。
……かっこいいな。

その、とくに大きくない目も、
ほんとに軽く天然パーマがかかっている所も
身長がちょうどいいくらいの高さに、
そのガタイの良さ……

ホントに好きだ。



「あの、先輩」


「ん?」



私が声をかけると、
大好きな笑顔で先輩はこっちを向いた。

ドキドキする心臓を抑え、
一言言った。



「良かったら、途中まで一緒に行きませんか?」


「えっ?別にいいけど」



ニッと笑うと、体育館シューズを袋に入れ、
よしっ と言ってからシューズ袋を肩にかけた。

うっわ………かっこ良過ぎるね…。

今倒れようと思ったら倒れれるよ。

私が靴を履いたのを見て先輩は
行こうか と言い、歩き出した。
一段一段ペースをゆっくりにして階段を下りてくれる。

そんな行動の優しさが…乙女心を擽(クスグ)るんだよ?
先輩は気づいてる?



「あのさぁ、黄架さん」


「はい?」



体育館の出入り口を出た瞬間、名前を呼ばれた。今日はよく名前を呼んでくれるなぁ。
そう思った。



「俺な、実はさ、…中1の時、ここに転校してきたんだ」


「えっ……そーなんですか?」


「うん。でも、引っ越しは2回目なんだよな…」



引っ越しは2回目…?
って事は、先輩は2回学校が代わってるの?
確か、私が小学校だった時も、1つ上に転校した先輩居たな…
アレっきり帰ってこなかったらしいけど…。



「1度は小学校5年の時に転校して、県違いに引っ越し。で、そこからここへ、2度目の引っ越し。……もう引っ越しはないみたいたけどね」


「そうなんですか…」



先輩の顔を見てみると、少し悲しそうな笑みを漏らしていた。
どうしてそんなに悲しい目をしてるんですか?
…なんて、聞ける勇気があったらな…。



「でもさ、……忘れられてるんだ。」


「…何を、ですか?」



忘れられてると言う先輩に、疑問文で返してみると、ビックリな一言が返ってきた。



「自分が好きな人に。」


「ぇっ……」



冷たい風が吹いた。
近くの大きな木がその風にのって揺れている。

……忘れられてる?
……自分の好きな人に?

そんな、そんな複雑で残酷な事…あるんですか?

先輩は悲しそうな目をしていた。
何かを失ったような、そんな目を。



「でも、もういいんだ」


「ぇ……どうして」


「だって、普通に会話できる関係に居るんだもん」



先輩……先輩はすごいよ。
どうして、…どうして?
忘れられてるんだよ?
自分の好きな人に、忘れられてるんだよ?
なのに、どうしてそんな平然でいられるの?

私だったら…絶対に泣いちゃうよ。
立ち直れなくなっちゃうよ…。
なのに、先輩のその気持ち。
すごいね。

やっぱり、私の『憧れ』であり『好きな人』でもある「赤井先輩」だよ…。
心からいい人、赤井先輩だよ…。






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