そして、朝
□大ちゃん奮闘記
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【step3:魔王の呪いを消す方法?】
そんなわけで。
野郎にファーストキッス(仮)を強奪されてから1週間。
俺はいつも通り進学コースの連中と講習を受け、行き帰りのバスの中でも赤シートをフル活用し、家に帰ってからもご近所さんから届けられたキットカットの山を頬張りつつ受験勉強に励むという模範的な受験生活を継続していた。
ふっ、ざまあみろ魔王亮太め。
アンタのその所構わない暴走行為なんざ俺はとっくに慣れている。
だてに長年アンタから無数の過剰スキンシップを受けてきた訳じゃないんだ俺も。はっはっは。
(ふにっ、てさ。こんなもんじゃねぇぞ? 唇同士じゃ――また格別)
……ここはアレだ。xの2乗に公式を入れて、計算すりゃーいつも通りの式の形が、
(生まれてからずっと見惚れてるだけの幼なじみ)
(――……手に入れたくねぇのかよ?)
だぁぁぁあ――ッ!!
うるさいから! 気が散るから亮太サン、アンタとっくにアメリカ帰ったんでしょ少し黙って!!
勢い余ってダンッと机に叩きつけてしまった拳。
瞬間、射るように向けられた周囲からの視線に、俺はすぐさま我に返ると頭を何度も下げて再び視線を落とした。
そして再び訪れた静寂にほっと胸をなで下ろすと小さく溜め息をつく。
模試がない土曜日は大体、この市立図書館に足を運ぶことにしている。
冷え込んできた外の空気を遮断し快適な温度に調節されている館内。
喋り声がなく少々の緊張感が漂っているこの図書館は、広さこそないものの受験生には優しい設備になっていて。
ま。飲み物の持ち込みを許可してもらえれば言うことナシなんだけどな。
恐らくは資料諸々を汚される危険を回避するための規則なのだろう。
飲み物禁止とはつゆ知らず、堂々とペットボトルを取り出した俺に対し訝しげな視線を向けられたのはまだ記憶に新しい。
やっぱ喉が渇くよなぁ……廊下でちょっとばかし休憩するかぁ?
――頭冷やすのも兼ねて。
「あ、いたいた。おーいっ、大ちゃんっ!」
そんな俺の心を知ってか知らずか。
満面の笑みで手を振るウサギ――もとい、妄想のど真ん中に据え置かれていた少女の登場に、
俺はまたもやガタタッ!! と静寂を破る派手な音を立てて鋭い視線の餌食になることとなった。
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