そして、朝
□大ちゃん奮闘記
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【step2:犯人は国外逃亡。】
源大樹。高校3年生。
――大事件が、起こりました。
これはもしや長年に渡って英断を下せない天罰なのか。はたまた高校時代の恩を未だ返せていないことへのペナルティーなのか。
どちらにしたってつい一瞬前に目の前で起こった出来事は、何度考え直しても完全に現実で。
「…………ッッ!」
何が起こった――ッ!?
人の気配が有り余る新千歳空港にて。さすがになりふり構わず腹筋を張ってそんな叫び声を上げるには、
自分は幾分か……常識人すぎたのだった。
―――――――
――――
――
事の起こりは、10分前。
新千歳空港内の、とあるファーストフード店。
「そんで? 例の幼馴染ちゃんとはどうなのよ、大樹クン?」
若い連中で賑わう店の端で、開口一番に問い質されるのは常日頃頭を抱えているその話題。
この人の一言で、対面で座っている木製のテーブルが取調室の無機質な机に、目の前に並んだハンバーガーセットが冷めたカツ丼に見えてくるから不思議なもので。
ニタリ、と笑みを浮かべる亮太サンに一瞬背筋が凍った。
「あはは。健気にお見送りに来てくれた可愛い元後輩にイの1番からその話題ッスか……相変わらずお優しいですねー、亮太サンは」
「だからこそ心配してやってんだろーがよ。色恋沙汰で悶々としてたら受かる大学も受からないってな。あ、最近どうよ受験勉強。はかどってるか?」
「あきらかに取って付けましたね。心配する気が少しでもあるなら長電話を気紛れにかけてくるのは止して下さい。つーか見ろ! この参考書ぎゅう詰めの鞄を見てみろ!!」
隣の席に重そうに横たえているカバンをバシッと叩く。
中は筆記用具に過去問、解答集、参考書、単語帳、赤シート用ノート……あ、なんか吐きそうになってきた。
そんな受験生オーラを纏った俺とは対照的に、目の前の元先輩はと言えばスマートなブラックのキャリーバッグ1つを傍らに寄せて楽しそうにククッ、と小さく笑う。
コーラに口を進める目の前の黒い癖っ毛が、ふわりと揺れた。
元バスケ部主将でもあるこの御崎亮太サンは、俺の2つ上の大学2年。
高校卒業と同時にアメリカ留学の資格を得て、去年の春先には単身異国へと旅立っていった。
それでも時差なんてそっちのけで、前触れもなく電話をかけてくるから困ったもので。
最初はいくら亮太サンと言えど寂しさが拭えないのかと思って頬を緩ませていたものだが――違う。
この人、こっちの近況を収集して楽しんでるだけだからね!!
「お前も本当要領悪いよなぁ〜……そんなモテない訳でもないんだろ、大樹。もっと青春謳歌すりゃー良いのによ」
「亮太サンにだけは言われたくないですね」
「俺はちゃんと謳歌してるし〜。頬を赤らめてこっちを見つめてくれる不特定多数の可愛い女の子たちと、な」
女の敵だ。
しかしながら周囲に聞こえない程度の音量を保っている分、その辺はちゃんとわきまえている。
現に今だって、この店に居合わせたそれこそ不特定多数の女子の視線があちらこちらから届いているのを感じる。
そんな視線の先に視線を向け柔らかな笑みを浮かべて応対するこの人に、背後で何やら色めき立った声を上がった。羨ましい。
騙されんなよー。この人、愛想良いだけで女のことなんて可愛いお人形さんくらいにしか思ってないからなー。
「ケッ。あれだろ? 小学生の頃からずっとお前のこと“大ちゃん”“大ちゃん”言ってバスケの試合も応援にきてたあのウサギちゃんだろ?」
「ウサギじゃなくて明日香です!!」
「あー。それそれ」とハンバーガーを口に頬張りながら告げる亮太サン。
興味があるのかないのか分からない態度に俺はガクッと肩を落とした。
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