長編、シリーズ
□名前を呼ぶ声
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熊井ちゃんが覚えてるようなうちは…どんなやつかだったか覚えてる?
いっつも笑えてたんだよ。不思議と、いつも笑顔だねって言われるくらいだったのに。
なのに…
熊井ちゃんがいなくなってから…なんかあるとすぐ泣いちゃうんだ。
「熊井ちゃん…グスッ…」
本気で好きだったから。
あなたの優しい声も、長い指も、エヘヘって笑い方も、高い背も。
怒るとメチャクチャだけど、仲直りしよ?って言ってくれるのは熊井ちゃんで。
うちは…バカだから。 バカだから強がってた。
熊井ちゃん。 強がれたのは、あなたの笑顔を信じれたからだよ。
「くま…い…」
ポロポロこぼれた雨は、だんだんどしゃ降りになる。
声も嵐みたいに強くなる。
あなたがいたはずのうちのとなりで、あなたがもういなくなってしまったとしって。
もう、とまらなくなる。
だれも…慰めにならない。
情けないって知ってるけど単なるわがままだけど……
もういっかい、名前を呼んでよ。
わぁわぁ泣いている、嵐の中を何かが切り裂いた。
「ちぃ…。」
不意に、なにかが髪に触れた。
もういないはずなのに。
懐かしい感じがした。
「ただいま、ちぃ。」
その笑顔に、優しい声に。気づいたら、うちの雨はやんでいた。
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