小説
□一瞬をください
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好き。 そのたった二文字で、人はどこまでも強くなれる。
でも、それとおんなじくらい、
人を……弱くすることも、できるんだ――
「みやぁ〜」
ニコニコした顔で近づいてきてくれる愛理。 小さく跳ねるうちの心。
どうしたーなんて髪を撫でると、少しだけ目を細める。
嬉しそうな、優しい眼差し。
こんな愛理を離したくない、でも、明日。 ℃-uteの仕事があれば……。
あの子の方に帰っていく。
昔は苦しくなるほどだった心臓の痛み。
でも今は、その痛みさえなぜか愛しい………。
愛理が浮気してると感ずいたのは、Buono!の仕事があまりなかった空白の一年間。
その間、何度もメールや電話なんかはできたけど、会うことは中々叶わなくて、やっとお正月のハロコンでゆっくりと愛理と話せる。
どんな話をしようかな……胸一杯につまった希望。
そんな希望を打ち砕くかのように、愛理と舞美のキスを目撃してしまった。
歪んだ視界は、夢か現実かを疑わせるほど絵になってて、二人の世界だった。
冷静に考えてしまえば、自分を悪く考えていけば、運が悪かった。
会えなかった運と、うちが悪い。
でもそんなふうに終わらせたくない。
だから、舞美に勝とうと思った。ううん、絶対勝ちたい。
愛理の気持ちがブレてるなら、ちゃんと振り向かせればいい。
足りない時間を、二人で埋めていけばいい。
そんな強い気持ちで愛理を信じていても恐ろしい想像や、いつ愛理からさよならといわれるかと言う恐怖。
何度も泣いたし、体重だって落ちた。夢なんて悪夢の方が多かった。
ボロボロでも、頑張って愛理の前では笑顔を作った。
もしかしたら……もしかしたら、そんな希望にすがり付いてた。
本当は、もうこっちに気持ちが向かないことは薄々気づいてる。気づいてしまってるんだ。
今までを見ているから、笑顔や会話の違和感はヒシヒシと感じて。
もうあの頃には戻らないと知っていているのに。
また、もしかしたら……ううん、せめてって言った方が正しい。
せめて、Buono!でいる間のほんの少しの間の嘘でもいいから。
こっちを見ていて、愛理。
「エヘヘ、なんか今日みや積極的だね。」
「え〜そんなことないと思うけど。」
髪に触れ、優しく頬を撫でる。
その瞬間、薫った香りは、うちがプレゼントした香水とはちがう。
うちのより甘くて、いい匂い。
「みや……?」
愛理。 こんなに…近くにいるのに。
今そばにいるのは、うちなのに。
「限界…だよ…。」
愛理の白くてきれいな頬に、零れるうちの涙。
ポタリ、ポタリと今までの思い出と一緒に。
「大丈夫? 私……」
なにかをいいかけた愛理の口を塞いだ。
せめて、せめてこのキスが終わるまで……
あの頃の、うちを好きでいてくれた頃の愛理で。
―うちだけを、見て……―
FIN