小説

□悲しみの天使の微笑
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「ももちぃ〜」



「くまいちょー!」



ももが熊井ちゃんに飛びついていく。 さっきまでとなりにあった甘い香りが風のように吹き抜けた。



「みや……、
今でも…つらい?」



「ぇ? あぁ…もう慣れたよ」



嘘だ。 いくら否定しても笑顔を見るたび、ふと会話をするたび、悲しそうな顔を見るたび、心臓がうるさいくらい騒ぎ出す。



離れたくないよ…
離れたくないよ。



体と見た目だけ大人っぽくなって、心の中心はももと初めてであった小学生の頃から動いてない気がする。



ふぅ…。 だめだなぁ…。



「今日はベリで遊園地〜♪」



「「「いぇーい!」」」



遊園地で撮影。 梨沙子とももは若干不安そうに見えなくもない。
できることなら、元気付けてあげたいけど、その役目はうちじゃない。



「大丈夫だよ。」



熊井ちゃんがもものてを握って優しく微笑んでる。



天然タラシ…カメラの見えないところでの熊井ちゃんの別名…。



無意識なところが余計にこわい。 ナッキーやエッグの子、最近娘。に入った九期の子も何人か熊井ちゃんが好き、という子もいるらしい。



その度に…ももは心を痛めてる。 強がって笑ってるけど、辛くないわけがないんだ。



でも、なにも言えない自分が憎い。 もものためと言い訳してる自分が一番憎い……っ!



「じゃあ今回は二、二、三で行動してもらうからね。」



スタッフさんの説明に、ももと熊井ちゃんは目線を合わせる。
「一緒になれたらいいね。」



そんな会話が聞こえてきそうだった。



* * * * *



「よろしくね、みや。」



ももと一緒。 嬉しすぎて、悲しい。



よろしくしたくねーとかありきたりな台詞をはいて、ひどーいとかいってるもも。



いつも通りだ。 でも、心臓がうるさいよ……。



「ていうかさ、みや。 ジェットコースターとか乗るの?」



心配そうな目線、カメラとは違う素のもも。



わくわくする。 今だけは熊井ちゃんを忘れてよ、もも。 思いっきり……



「キュンとさせてあげるよ……――」



「えっ!?// み、みや!!!?//」



あー絶対今うち顔赤いよ…。



バクバクいってる心臓を押さえつけながらももの手を引っ張る。



ももには待っている人が居る、そんなこと知ってるよ。



でもいいじゃん、今日くらい、待たせっぱなしにしたって。



「うっしゃー! まずはあのコースターからいくよ、もも!」



「勘弁してぇ(泣)」



* * * * *



「うぅ…ギモヂワルイ…」



「ご、ごめん。」



調子にのりすぎたみたいですっかりももはグロッキーになってしまった。



一応マネージャーに許可もらって飲み物を買いにいく。



「はぁ…もも楽しめたのかなぁ……。」



自分の後悔で浮かぶ罪悪感。 飲み物だけのつもりだったけど…



「アイスでも買ってってやるか。」



春らしいサクラ味のピンク色のソフトクリーム。



ももが喜ぶ顔を創造し、緩む頬を隠さずにベンチまで戻る。



「ん〜ぼーのぉ!!」



カメラ目線に喜ぶももをみて少し苦笑い、でも喜んでくれたんだと思うとこっちまで嬉しくなる。



夢中にパクつくももを見ていると、目があった。



すると、ニンマリ笑って(これだけでドキドキしたけど)アイスを差し出してきた。



「一緒に食べる?」



「いいの?」



「みやが買って来てくれたんでしょ、ほら、あーん♪」



……ダメだ。 熊井ちゃん、ごめん。



何度も謝ってアイスに口を近づける。 ピンク色のソフトクリームがももの唇とダブってしまったうちは重症だと思う。



あと少し、あと、ちょっと………っ!!






ひょいっ



「へ!?」



「ウフフ、もものし・か・え・し」



……やられた。



ももー!なんていっといたけど、正直今のは傷ついた。



近くまでいくけど、遠ざかる。 あと一歩のところで、なくなってしまう。



大袈裟だけど、バカらしいことかもしれないけど、



うちは…



「夏焼さん、嗣永さん。 たぶんあと一つくらいで集合になります。」



「あとひとつだって! じゃあみや、あれのろ!!」



「いいの?」



「うんっ♪」



そう、あれとは遊園地のカップルの宝庫であり、ロマンチックな伝説がある…



観覧車!!











ではなく、



「ちょっとみや〜なんでオバケ屋敷なのさぁ(泣)」



「ん? 仕返しの仕返し。」



バカーって叫ぶもも。 観覧車は熊井ちゃんと行きなよ。



うちはここで十分だから。



何だかんだのギャーギャー叫びながら出てきた。



二人ともぜーぜー言いながらも笑えてた。



よかった、いい思い出で終われそう。



でも、そうはいかない。物事は最後の一瞬まで人を苦しめるんだ。



「はい、二人とも。」



「? なんですかこれ。」



小さい天使が微笑んでるようなかわいらしいペンダント。



「あのオバケ屋敷の伝説でね。 二人でゴールできると幸せになれるらしいんだ。それが噂になって作ったんだと。」



えーほんとですかぁ!?なんて言ってるもものそばで。



うちの心は崩壊した。



もう…諦めることなんて……






出来ないじゃんか…。


ペンダントに見える天使の笑顔が、ひどく冷たく見えた。




FIN
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