短編

□日差しにとける
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なまえ先輩のことを、他の人は口を揃えて変な人だと言う。
勿論、僕もそう思っている。

黒の長い毛をじっとりと濡らし、霧雨の中ずっと中庭に立ちすくしている。
霧雨でも、ずっと立っていれば濡れる。それでも先輩は立っている。中庭の真ん中に、立ちすくしている。なにをするのでもなく、ただ。
「なまえ先輩、」
ぎゅ、と先輩の右腕をつかむ。

どうかしたの?レギュラス
後ろを向いたままの先輩の口から発せられている声が、いつもの先輩の声なのに、違うように聞こえた。
僕は下唇をぎゅっと噛んで、比例するように右手にもぎゅっと力を込めた。

「痛いよ、レギュラス。」

女の子には優しくしないと、好かれないよ
べつにいいです、と僕がいう。
くるりと髪を翻して振り向く。
水を少し飛ばして、

「先輩が、消えてしまいそうで」
「ばかだなあ、レギュラス。私はここにいるよ」

ばかなんかじゃありませんあなたがばかなんです、なんでこんなに濡れて、風邪ひいてもしりませんから、
ひかないよ、私、ばかだもの
ふわりと彼女が笑った気配がして、僕の口元もゆるく上がる。(先輩のように綺麗に笑えないから、皮肉のような笑みになっているだろうけど)

先輩、
何故か僕は堪らなく不安になって、先輩にぎゅうと抱き着いた。
東洋人の先輩は僕より小さくて、抱き着いたというより抱きしめているようになっている。

ぱしゃり、と先輩の足が動いて少しだけ僕の肩がはねる。振り払われるんじゃないかって、

「…レギュラス、私はここにいるよ」

先輩の腕が背中に回される。しがみつくようになのに、僕がつつまれているようで
なんだか変な感じがした。

日差しにとける

抱き着いた先輩からは、おひさまのようなにおいがした。



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