頂き物
□プトレマイオスから帰りました
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「ただいま、甲ちゃん!んでもって甲ちゃん、遅くなったけどお誕生日おめでとーッ!」
プトレマイオスの遺跡がどうたらこうたらで渋々エジプトへ九龍は旅立った。それはほんの一ヶ月前のこと。
「…一先ず、おかえり、九ちゃん」
いきなり寮の扉を開いた思いがけない訪問者を自室へと迎え入れる。
「すごかったよ、流石エジプトて感じ!!もう興奮したよ〜!まさかあのプトレマイオスの遺跡がさぁ…」
楽しそうに目を爛々と輝かせて話している相手に俺は何度も相槌を打って「そうか、そうか」と聞いてやった。
「それで、そこの遺跡にあった古代文字が……」
その瞬間、はた、と話が止まる。
「古代、文字が、さ」
思い出すように話していたせいか、天井ばかりを映していた相手の瞳が俺へと向けられる。
「……甲ちゃん」
次第に潤んだ瞳で俺の名前を呼ぶものだから飛び込んできた相手を抱き締めるしか選択肢はなかった。
「……寂しかった」
「…俺もだ」
俺の胸に顔を埋めて擦り寄る。涙で濡れるのも別に構わなかった。
「…もうどこにも、行かないから」
「あァ、もうどこにも、行かないでくれ」
強く俺は自分より小さな相手を抱き締めた。
苦しいよ、と涙声で訴える相手の言葉なんて、聞こえないフリをした。