剣風帖

□以唇伝心
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「………。あのよ、ひーちゃん」
「……ん?」
「そんなにじっと見られると、さすがに照れんだけど…」


しかもその視線の先が唇となると、変な気分になっても仕方ないと思うんですが。

これは明らかに自分のせいじゃないはずだと、京一は短く溜め息を吐いて目を逸らした。
龍麻はたまにこうやってナチュラルに際どいことをするから性質が悪い。


「京一、知ってた?唇って、愛情の度合いを表してるんだって。上唇は自分が他人に与えてる愛情で、下唇は自分が他人から与えてもらってる愛情」
「何だそりゃ…」
「テレビでやってたんだよ。…両方とも薄い俺は、元々愛情ってものとは縁が薄いってことなのかもな」

真剣な顔をして何を言い出すのかと思えば…。
今度は深々とした溜め息と共に、京一は頬杖をつき、龍麻を見た。

「そんなことねェだろ?少なくとも、“与えてもらう”方は満ち溢れてるはずじゃねェか。まあ、薄いのがどうしても気になるってんなら、実際腫らしてやることもできるし―――」

 
後悔先に立たず。

今までに何度も身に染みたはずのその教訓が生かされる日は、いつになったら来ることか。

失言に容赦のない龍麻の拳が鳩尾に炸裂し、京一は小さく呻いてうずくまった。




「おまえは愛情に溢れてるのがよくわかる。唇とかじゃなくても、顔に表れてるから」

ダイニングテーブルから、リビングのソファーに移動した龍麻の後に続きながら、京一は自分の顔に手を当ててニヤリと笑う。

「そりゃあ、愛されてますから」
「へー。一体誰に?」
「さーなッ」

そう言って隣に座り、龍麻を引き寄せて唇を重ねた。



「……京一」


龍麻が抵抗することはなく、口付けは次第に深くなる。

少し強引に、そしてどこまでも優しく。


「―――…ほら。ひーちゃんだって同じだろ?……俺の前でどんな顔してるか、おまえが知らねェだけなんだよ」


甘噛みされ、ぷっくりと膨れた龍麻の赤い唇を指でなぞり、京一は微笑った。

幸せそうに……愛しそうに。

それはすぐに、龍麻にも伝染して。



愛されている自信がないなんて、言わせない。
不安に思うなら、その度にいくらでも確認しよう。

愛情表現は得意だ。




End

 
→お題配布元Seventh Heaven

 
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