大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿2−1
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その日新人の隊士2名は青ざめた顔付きでその部屋を訪れていた。


「し、失礼します」
「どうぞ」


中から聞こえた清らかな声に、より肩をびくつかせて互いに顔を見合わせると、意を決して障子をあけた。

さらさらと、筆の走る音が室内に僅かに響く。端正な横顔は一心に机に向かい、こちらを向くことはない。
鬼の副長の場合は、入口に背中を向けて仕事をしているが、このように顔が見えるのもまた心臓に悪い。


「なにか?」


顔をあげることなく告げられた言葉に慌てて手元の書類を二人して突き出した。


「か、回覧用の報告書をお持ちしました」

カタン

筆が置かれ、自分の手元から書類がとられる。
先程まで机に向けられていた視線が自分達がもってきた書類に向けられている。
何度もチェックはしたはずだが、妙な緊張感がある。


「わかりました。これは副長に回します」


つまり、承認されたということだ。
新人2人は肩の力を抜いた。


「お時間をいただきました。失礼致します」
「失礼致します!」
「ご苦労様」


できる限り静かに閉め部屋を出る。廊下の角を曲がった瞬間、大きくため息をついた。


「「緊張したあああ」」

「なにあの空気!?ちょっとの乱れも許さないっていうか」
「あの目で見られると、何もしてないのに心臓が絞られる…」
「副長の部屋いくときもヤバいくらい緊張するけど」
「補佐の部屋もやべぇ」


どちらを選ぶかと聞かれたら真剣に悩んでしまうところだった。






一方補佐室。


「人形ーお昼いこー。え?何この空気」
「山崎静かに!」
「え、何?何で潜入時ばりに無音貫いていんの?」


昼食を誘いに来た山崎は人形に咎められ、文句を言いつつも押し黙る。
辺りには遠くから聞こえる隊士や女中の声が僅かに響く。


「なに?」
「しっ!今日は副長が居ないから局長の生活音が聞こえるかもしれないでしょ!」
「聞こえないよ。てかどんだけ真剣なの。ほら早く行くよ」
「やだー!」
「今日オムライスあるって」
「まじでか」


山崎は人形を無理矢理肩に担いで食堂へと連れ出した。





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