大江戸監察事件簿
□大江戸監察事件簿70
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突撃対象の建物前に並ぶ。
配置は中央に一番隊。その後左右に展開。建物を囲むように一周。
監察は周囲の建物の上に居る。
早朝の出来事であったが、真選組の全隊が出動する騒ぎに、すでに現場は野次馬や早々に駆けつけたマスコミで混乱を期していた。
「近藤さん、包囲網は完了してるぜ」
「ああ。総悟、準備はいいか」
「もちろんでさァ近藤さん」
土方が建物に向かって口上を告げようとした。
それを近藤の手が制する。
「近藤さん?」
「すまないな、トシ。今日ばかりは俺にやらせてくれ」
土方は近藤の意図することをいち早く理解すると、一歩、近藤の後ろへと下がった。
「隊士たちよ良く聞け!」
「これより向かうは危険薬物を広め、私利私欲のままに江戸を混沌へと貶めた極悪人!」
「手向かい致すにおいては、容赦なく斬り捨てよ!」
「かの者が繋いだ義を決して絶やしてはならん!」
「只まさに一志を以てかの者の恩に報いん!」
近藤の刀が抜かれ、天へと向けられた。まるでかの者が還った炎の軌跡をなぞるかのように。
そして刀が振り下ろされる。
「御用改めである!!!」
「大目付役人並びに大目付長官、中山曲守!!!」
「神妙にお縄につけ!!!」
「真選組全隊突撃ィィィ!!!」
黒い制服を身にまとった男たちが大目付の入る庁舎へと突撃していった。
向かう先は庁舎最上階。
役人が寝泊まりできる庁舎内には一般人も多くいる。それらを監察が避難誘導する。
最上階へ近づけば近づくほど、おおよそ一般人とは言い難い者たちがそれぞれ武器をもって降りてくる。
まさか庁舎そのものにキヤイの裏組織の者たちが潜んでいたとは。
「くらいやがれ!」
先陣を切り、道を拓く沖田がバズーカを吹っ飛ばす。直撃しても頑丈なキヤイの者たちは銃のようなものをこちらに向けた。
ピシュンッ
サプレッサーをつけた銃のような音をたてて飛んできたのは光線。とっさによけたが、そのせいで光線をまともに受けた壁はぐずぐずに溶けている。
掠った腕から血が流れる。
「続け一番隊!」
「刀で斬るな、身体で斬れ!」
「刀が折れたら鞘を抜け!鞘が折れたら素手でも戦え!」
それでも決して引くことはしない。
あの可愛い部下が受けた痛みはこんなものではない。あの子が耐えたのなら自分も耐えてみせる。
「どきやがれィ!!!」
この道を、絶対に切り拓いてみせる。
沖田をはじめ、一番隊が着実に前へと進む後を土方は続いた。
今しがた切り捨てたキヤイのやつが懐から粉を取り出し、それを口に含む。
すると出血していた傷がみるみるうちに回復していく。
この薬がすべての始まりだった。
そして可愛くなく可愛い部下の命を結果的に奪った。
目の前が怒りで焼き切れる。
「ケンカってのは、おっぱじめるときにすでに命がないと思うことだ。テメェの命賭けて気張りやがれ。それができねェなら」
「俺らにやァ勝てねェよ」
土方の刀が対峙する男の首を刎ねた。
やがてたどり着いた最上階。
物々しい扉に「大目付」のプレート。
近藤が立つ。
コンコンコン
まるでここが戦場と言うことを忘れるほど丁寧なノックだった。
「どうぞお入りなさい」
返ってきた声も、ひどく落ち着いていた。
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