大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿63
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「人形が戻ったというのは本当か!?」

パァン

屯所の障子が勢いよく開く。額に汗を浮かべた近藤が飛び込んできた。
近藤が目にしたのは、いらだった様子でタバコをふかす土方と、壁際にもたれている沖田、正座した人形にしがみついて泣く山崎だった。


「局長、長らく任を離れて申し訳ありませんでした」


人形は三つ指をついて頭を垂れた。
色々聞きたいことはあるが、まずは変わらない様子の人形に体の力が抜ける。

近藤は思わず人形のもとへと駆け寄ると、片膝をついてその肩をつかむ。


「良かったッ!人形、本当に良かった!」
「局長…っ」


震える近藤の声に、人形も涙ぐむ。


「感動の再会のところ悪ぃがよ、人形。そろそろ説明してくれや」
「副長…そうですね」


人形は姿勢を正すと近藤に向き直る。


「私が庁舎に向かったあの日から起きたことを順に説明します」


近藤も一度人形のそばを離れると胡坐をかいて腰を落ちつける。それにならって沖田も片膝を立て、獲物を肩に立てかけて座った。土方は灰皿にタバコを押し付ける。


「大目付から私に言い渡された処罰は『戒告』そして無償労働でした。そして大目付長官、中山曲守様から、ご息女の護衛を命じられました」


中山の名前を口にすると、近藤と土方の顔色が変わる。


「なぜ、中山殿が人形に?」


人形は言葉につまった。キヤイの件を言うべきか。
もちろん、人形は真選組が灰かぶりの斡旋をしているとはもちろん微塵も考えていない。しかし、中山との関係があるのも事実。今はまだ言うべき時ではないのではないか。


「今朝の、あのニュースか」


詰まった人形を知ってか知らずか助けたのは土方の一言だった。


「あの一件は確か大目付が管理していたはずだ。中山がキヤイに抗議文を出したとすれば…、ましてやヤベェ薬物を輸入していた上に最近国交を正常化させたばかりの国だ、当然身辺が危険になる」


正確には抗議文を出したのは中山ではなくその他の役人であり、キヤイ政府自体は反論文の通り、何もしらない。
しかし、あえて人形はそのままにしておいた。


「今回の抗議文は極秘に進められていたため、私は組との接触も控え、秘密裏に護衛任務を行っておりました。しかし、今日正式に抗議文が発表されたため隠す必要がなくなり、そしてより強固な守りでご息女を守るべく、こちらに帰って参りました」


人形はほんの少しだけ嘘をついた。


「なるほどな、キヤイ政府に狙われているとなると、人形一人での護衛は荷が重い」


近藤は納得したようにうなずく。
しかし、娘を狙うのはキヤイ政府ではない。キヤイの裏組織、地球の仲介業者。そして、今日の抗議文によってどれだけの影響が出たのかわからない。もしかすると、薬物中毒者が大目付を逆恨みして、長官の娘を狙うかもしれない。


「局長!」


その時、障子の裏から声がかかる。この野太い声は原田だろうか。


「なんだ」
「失礼致す」


ガラッ


「局長、こちらの文書が先ほど届きました」


原田は局長に封筒を手渡した。
その封筒に捺印されていたのは、大目付の紋。

全員が固唾を飲んで見守る中、近藤は封筒を開き中の文書に目を通した。








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