大江戸監察事件簿
□大江戸監察事件簿51
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どうも、山崎退です。
今日はなんとなく何人かの隊士が集まって外に呑みに出ています。
するとその噂を聞きつけた他の隊士まで集まって、なんだかんだそこそこの人数での飲み会になりました。
今はメインではしゃいで盛り上がるチーム、少人数でしっとりと話し込むチームと個々がそれぞれ自分なりの居場所を見つけて呑んでいます。
俺はと言うと半ば無理矢理はしゃぎチームに入れられて、なぜか黒○げ危機一髪をやらされています。ちなみにわざわざお店で誰かが借りてきたそうです。
ポーン
「来たー!はい、罰ゲームー!」
「待ってましたー!」
「何する何する!?」
罰ゲームと称して馬鹿みたいに笑うやつらを見ながらビールを呑む。
「じゃあ奥さんに愛してるってメールってのはどうだ?」
「それいいな!」
「やめろおおお!羞恥心で死ねるううう!」
負けた隊士は妻子もちであるため、どうやら罰ゲームはそんな形になったらしい。一昔前だったら間違いなくビールの一気飲みだったが、今のご時世そんなことも出来なくなった。
「いくぞおおお送信!!!」
酔った勢いで携帯をいじる隊員を見てひとしきりみんなで笑う。
そんな中、ふと周りを見渡してみると、珍しく副長と人形が二人だけで話し込んでいるのが目についた。
隣同士に並んだ二人は中々楽しい話をしているらしい、始終笑顔だ。
時折人形が見せる携帯の画面を副長がのぞき込んで、二人して大口を開けて爆笑する様子すら見せる。
いや、本当に珍しい。
片膝をたててタバコを指で挟みつつお酒を呑む副長は、いつものしかめっ面ではない。局長や俺たちに見せるのとも違う、少年のように屈託なく笑う。
人形は人形で、こちらもいつものように微笑むのではなく、心から笑っているようで、時折笑いすぎて滲んだ涙を拭く様子もある。
「山崎ーどうしたー?」
動かない俺を不審に思ったらしい。
今まで一緒になって遊んでいた隊士の一人が声をかけてきた。
「いや、副長と人形がなんか楽しそうだなーって思って」
「ん?ああホントだな。まああの二人はある意味特別な関係だしな」
「何々何の話?」
「あー副長と人形について?」
「あそこ見てくださいよ」
「あー実は仲良いもんなーあの二人。何だ嫉妬か山崎?」
「違いますよ!」
思わず声を荒げてしまった。
「普段ケンカしてるように見えて、それもコミュニケーションの一環って感じだしな」
「副長も人形も、お互いがお互いに遠慮ないしな」
「プライベートだったら人形タメ口になるしな」
「実際タメだしな」
「まあ俺たちとは違う関係だよな実際」
「なんつーか、気の置けない昔っからの友人みたいな空気感だよな」
何がそんなに面白いのか、未だに爆笑しながら話し込む二人を見ながら隊士たちがうんうんと頷いていた。
結局この話はメールの返事が来たことによって中断され、そのままになってしまった。
「あー呑んだ呑んだ」
「明日遅番でよかったわー」
宴もたけなわとなり、それぞれが岐路につく。といっても、帰る場所はみんな同じなのだが。
屯所の廊下を進み、自室へ帰ろうとすると、その前に同じように廊下を歩く人形を見つけた。
「人形」
「あ、山崎。私このまま副長の部屋で呑み直すから、先に寝てて」
「え」
このまま一緒に部屋にもどろうとしたのに、その考えを否定されて思わず不快感が顔に出てしまった。
「大丈夫なの?」
「なにが?」
上司と部下の関係とはいえ、一応は男女だ。
自分のことは棚に上げて苦言を呈してしまったのは、先ほどの居酒屋での二人が頭から離れないからかもしれない。
だって、あの場の二人には上司と部下なんて関係は一切みられなかったから。
「じゃあね。おやすみ」
俺の心配はよそに、人形は廊下を曲がっていってしまった。副長の部屋の方向へと向かって。
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