大江戸監察事件簿
□大江戸監察事件簿52
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真選組副長土方十四郎だ。
俺は局長室で近藤さんと色々な打ち合わせをしていた。
「副長ォォォ!どこですか副長ォォォォ!」
そこに聞こえてきた山崎の慌ただしい叫び声。お前は本当に監察か?もっと静かに来い。
俺は襖を開けると顔だけを廊下に出す。
「ここだ山崎」
「あ!副長!」
山崎は俺の姿を確認すると廊下を突き進み、慌てて駆けつけた。
ちょっと待て、何を抱えている。
「これ見てくださいよ!」
山崎の両手で目の前に突き出された物体。くりくりとした丸い目、大福のようなほっぺ、肩にかかるほどのおかっぱ頭。
「おい、まさか、これ」
「人形がちっちゃくなったんですよー!!!」
またかよ!!!
とにかく山崎と人形らしき物体を局長室に入れて襖を念入りにしめる。あぐらをかいた山崎の膝の上で人形らしき物体は行儀よく座っている。
「山崎の言う通り、確かに人形だな」
近藤さんがマジマジと見つめる。前回小さくなったときは2歳ほどの大きさだったが、今回はそれよりももう少し成長しているようだ。
山崎は上から人形らしき物体をのぞき込んでゆったりと質問をした。
「お名前教えてくれる?」
「市松人形ー」
「いくつかな?」
「5さいー」
右の手のひらを見上げながら山崎に広げてみせる人形(もう確定でいい)に、山崎が一気にしまりのない顔になった。
「ちょ、今の見ました!?滅茶苦茶可愛いんですけど!」
「あー見た見た」
面倒くせぇ。まあ何とか意思疎通ができるだけ前回よりはマシか。
「人形ちゃんここがどこかわかるかな?」
近藤さんが体を低くして目線を合わせる。人形はキョロキョロとあたりを見渡すと首をかしげる。記憶も一緒に退行したことがよくわかった。
「どこ?」
「ここは江戸だよ」
「おししょうさまはー?あにさまはー?」
どう考えても今すぐには会うことのできない名前を出した人形に何も言えなくなる。人形は持ち前の賢さからか、状況を察したようで寂しそうにうつむいた。
「実は俺たちは君のお師匠様にしばらく江戸で預かるように頼まれたんだ」
さらっと人形が不安にならないように嘘をつく近藤さん。それを聞くと人形はため息をついた。無駄におとなしくて怖い。
「人形しってるよ」
「ん?どうした?」
「わるい人たちが国をのっとろうとしてるんだって。だからみんなたたかってるんだって。じじさま言ってた」
それが何を指すかを察して何とも言えない空気が流れる。
「いつか人形もいかなきゃって。だからいっぱいおべんきょうしなきゃいけないって。だから人形がんばってるんだよ」
人形は小さな手で着物を握っていた。普段語られることのない人形の過去を垣間見た気がして、何か居心地の悪いものを感じる。
「そうだな。でもここに居る間は修業は一旦ストップだ。お兄さんたちと思いっきり遊ぼう!」
近藤さんは人形の脇に手を差し込むとそのまま持ち上げて足を首に回させると、自分の肩の上に乗せた。
「甘味は好きか?」
「かんみ!?すき!すきすき!」
「よし!食べに行くぞ!」
「きゃー!たべるー!」
はしゃぐ人形を肩車したまま近藤さんは走り出した。さらに人形の歓喜の叫び声があがり、それが遠ざかって行った。
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