大江戸監察事件簿
□大江戸監察事件簿50
1ページ/4ページ
こんばんは。
キャバクラすまいるのホステス、志村妙です。人形さんとクソゴリラを進展させるために、本日すまいるは特別態勢で営業中です。
人形さんはここ数日でめきめき女子力という名の貢がせ術を身に着けて、今日は決戦の時。先ほどまで土方さんの相手をしていた人形さんを引っ張ってとりあえず裏まで連れてきました。
「さ、人形さん。行くわよ」
「お妙さぁん…」
今日のためにすまいる総出で磨き上げた人形さんは、私の手を両手で握りしめながら情けない声を上げた。
普段この歌舞伎町も彼女はよくパトロールをしているが、その勤務中の凛々しい姿とはうって変わって本当にいくつも年上かと思うほど可愛らしい。
「本当に、私、いいから」
「ダメよ!あなたは素敵な女性なんだから、ちゃんとアピールしないと」
私も人形さんの手を握り返す。人形さんはまだ困ったような表情で視線を落としていた。
何が彼女をそこまで拒絶させるかわからないけれども、今ここで引いてしまったらダメな気がする。
私はもう一度人形さんの手を力強くにぎった。
「人形さん、近藤さんのことが好きなんでしょう?」
憧れや尊敬ではなく、もちろん恋慕の意味で。
「……はい」
人形さんはゆっくりと、だけれどもしっかりと頷いた。
「近藤さん、お待たせしてごめんなさいね」
「お妙さああああん!待ってたよぉぉぉ!」
元のテーブルに戻れば、ヘルプで入っていた子が意味深な笑みを浮かべて席を空けた。近藤さんはかなりお酒が入っているようで、赤い顔でソファーの背もたれに体を預けている。
「近藤さん、私ちょっと他のテーブル回ってきますから」
「ええ!?お妙さん行っちゃうのぉ!?」
一升瓶を抱えながら気持ちの悪い涙を流している気持ちの悪いゴリラに愛想笑いを浮かべる。人形さんの気持ちを考えると今すぐ顔面に拳を叩き込みたいわ。
「新人の子がつきますから、よろしくお願いしますね」
私の後ろに隠れるようにスタンバイしていた人形さんの手を引いて前に出す。周りのキャバたちや、真選組のみなさんですら緊張した面持ちでこちらの様子をうかがっている。
「人形さん」
小声で促せば、人形さんはようやく一歩前に進み出た。きっと、凄く凄く勇気のいる一歩だと思う。
腕を引いた私にしかわからないけれど、小刻みに体が震えている。
普段酔っ払いやタチの悪い男を相手にする時にはそんな様子は一切見られないのに。
「…よろしく、お願いします…」
消え入りそうな声で告げられたあいさつ。近藤さんは私のやや前に立った人形さんをついに捉えた。
「ん?」
目が合う。
「人形か?」
「はい、人形です。局長」
近藤さんは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに満悦の、少年のような笑みを浮かべた。そんなまともな表情も出来るのかと、少し驚いてしまう。
「座れ人形!一度お前とゆっくり呑んでみたかったからな」
近藤さんは少し体をずらして人形さんが座れるようにスペースを開ける。
「はい、局長」
恥ずかしそうに笑った人形さんに、私だけでなく様子を見ていたみんなが見惚れただろう。
→