大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿43
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どうも。坂田銀時だ。


あの、真選組での一軒。そこからの動きは早かった。御上が動き、江戸全体で例のお守りは摘発対象になった。同時に化学班の分析結果を基に解毒剤のようなものも開発され、事件は確実に終着に向かっていた。

人形はしばらく軟禁状態で安静を言い渡されていたが、先日外出を許可されたようで万事屋に顔を見せた。
着物を着ているところを見ると、まだ療養状態なのだろう。


「人形さん!」
「マミー!もう大丈夫アルか!?もうどこもおかしくないアルか!?」
「新八君、神楽ちゃん。随分と心配かけてしまってごめんね。大丈夫よ」


泣きつく神楽を撫で、新八に菓子折りを渡す。神楽が菓子折りに飛びついたことを確認すると、柱にもたれかかって立ったまま動かない俺のところまで来た。


「色々とありがとうね、銀さん」
「…」


何も返さない俺にそのまま人形は続ける。


「沖田隊長から聞いたわ。銀さんが怒ってくれたこと。目が覚めたら副長の顔面偏差値が上がってたからびっくりした」


冗談めかして笑う人形の表情は柔らかく、その深い瞳が俺を写す。
その瞳を見て、ようやく俺は人形の肩に額を当てて息をはいた。


「もうあんな思いなんざ二度とごめんだ」


そこに人形に対する怒りも含めていることをわかっているのか、人形は何も言わない。肯定も否定もしない。


「ありがとう、銀さん」


人形の両腕が俺の背中にまわる。ぎゅっと込められたそれに、これ以上何も言えなくなった。




屯所に戻るという人形に並び玄関を出る。そんなに距離は離れてはいないが、今の人形を一人で返すのは心配だった。


「本当に大丈夫なのに」
「いいから黙って送られとけ」


確かに足取りもしっかりしており、体に異常はないようだ。


カラン カラン


聞こえたあの音。


カラン カラン


いつぞやのように目の前に現れた笠。耳につく桐下駄が道を鳴らす音。


「下がれ人形」


腕で人形が前に進むのを制して後ろに下がらせる。俺の緊張を感じ取ったのか、人形の顔つきも変わり、いつでも動ける体勢をとった。


「万事屋、さんに、隊士の、お方」


女の顔が上がり、またあの無駄に整いすぎた顔面があらわになる。


「銀さん、あれが」
「ああ。例の妄想女だ」


女から視線を外さず小声で確認をし合う。人形は襟の袷に手を入れると何か探っているようだった。


「テメェが何考えてるか知らねェが、お守りはご法度になったぜ」
「そう、ですか」


もはや知っている情報だったのだろうか、女はさほど動揺したそぶりも見せない。


「それでも、御仏は、事実。御仏は、私の、顔を愛しました」


するりと自分の頬を撫でる。狂気に孕んだ目は濁っている。そう、あの時の人形のように。


「お前よ、悲しくねぇか」
「なに?どうして?」


にっこりと笑う女に、心底気持ち悪さが込み上げる。


(狂信者め…)


別にこいつを救おうとは思っていない。そもそも俺が何を話そうが頬を撫でて笑う女に救いなどあるのだろうか。
すると人形は俺の手をどかすと前へ出た。


「おい人形!」


堂々と、迷いなく女のもとへ歩く。


「あなたも、きっと、良くなるわ」


女は目の前に来た人形を見つめ返すと、うっとりとつぶやく。すると人形は手を振りかぶった。


パァンッ


「え゛…ちょ、人形ちゃん?」


人形ちゃんの強烈なビンタが女の頬を襲ったのだった。







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