大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿40
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どうも、山崎退です。今日は松平のとっつぁんの付き合いで、数名の隊士たちが私服ですまいるに来ています。
何度来ても慣れないなこの空気。

とっつぁんはキャバ嬢たちを左右に侍らしてご満悦だ。局長は相変わらず新八君のお姉さんを追いかけて鉄拳制裁をくらっている。副長はまた別のテーブルにいるが、やはりその顔の良さからか派手なキャバ嬢たちに囲まれている。
俺はというと、副長と同じテーブルについておこぼれにあやかるという情けない状況だ。
仕方ないだろー!俺は副長のパシリなんだからすぐに対処できる位置にいないといけないんだから!あ、自分で言ってて空しくなってきた。

ちなみに人形は今日は待機組なため、今頃屯所で沖田隊長たちといるはずだ。


「副長さんどうぞ」
「ああ」
「そちらの隊士の方もどうぞ」
「あ、スミマセン」


ホステスが俺のグラスにビールをそそぐ。副長はウィスキーをロックで呑んでいるようだ。すでに入店してそれなりの時間はたっているため、程よく酔いが回っている。
俺は店内を見回した。
すまいるの馴染みのホステス達は今はとっつぁんについているため、俺たちの相手はあまり見たことのない人たちだ。なんか、すまいるの雰囲気とちょっとちがう。
俺は仕事柄なんとなく周りの女性たちを観察をしてしまった。


「やっぱり格好良いですよね副長さんって」
「わかるー!別格ですよねー!」
「いっぱいサービスしますねー!」


副長についたホステスがかならず一度は口にする言葉。普通の客だったらお金を落とさせるためのお世辞だが、相手が副長ともなれば話は違う。ホステスの本気度が見て取れる。あわよくばとアフターまで持ちかける始末だ。
副長はこんなの楽しいのかな。
俺はこんなんなら待機組のほうが良かったとビールを呑んで気持ちをごまかした。

その後も気持ちの悪い猫なで声が続く。基本的にホステスたちが副長に媚を売り、副長が適当に相槌を打って流すの繰り返しだ。
その会話の中でわかったことだけど、どうやらこのテーブルについているホステスたちは期間限定の他店からのヘルプらしい。
なるほど。すまいるのホステスらしくない、女性らしい人たちだと思った。
良い意味でも悪い意味でも。


「あ、そういえば副長さん。私聞きたかったことがあるんですー」
「なんだ」
「真選組の隊士に、女の人いるじゃないですかー。あの人ってどんな人ですか?」


「あの人」が指し示すのは一人しかない。そしてその表現の仕方に、この女が「あの人」に決して好意的ではない感情を持っていることが伝わる。


「あ!私も聞きたーい!」
「私もー!」
「どうやって入隊したんですか?普通は無理なんじゃないですか?なんか特別な入り方でもしたんですか」


クスクスと笑う女たちが途端に醜い化け物に見える。その言葉に含まれた意味がわからない馬鹿ではない。
俺はグラスに力を込めた。


「んなこと聞いてどうすんだ」
「だってー」
「男性ばかりのとこに自分から行くってことは、ねえ」
「何考えてるか見え見えでちょっと引くよねー」


ふざけるな。人形はそんなんじゃない。人形のことを何も知らないお前らが知ったような口をきくな。
怒りにまかせてホステス達をたしなめようとした。


「山崎。座っとけ」


それを副長が遮った。

副長はテーブルに置かれていたタバコの箱をとり、そこから一本咥える。すかさず隣のホステスがライターを手に取り火をともした。ホステスはそのまま副長にしな垂れかかろうとしたが、副長がタバコを指で挟むために腕をあげたため、それは叶わなかった。


「三百本だ」


三百本。懐かしい響きに俺はあの時の記憶が一気に蘇るのを感じた。


「一日百本、俺と総悟を相手に地稽古を三日間。計三百本の打ち合いだ」


地稽古とは別名互格稽古とも呼ばれる稽古のことだ。柔道や空手なんかでは乱取りとも呼ばれる。実践を想定した稽古で、もちろん怪我なども伴い、地獄のような稽古である。


「それがアイツの入隊条件だった」








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