大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿38
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どうも。真選組監察方山崎退です。
副長にとんでもない宣告をされた後、よくよく人形を観察するともはやそれにしか見えません。

あれから数日たち、気持ちの悪さは幾分とれたのか、少しだけ食事をする様子が見られた。けれどその量は依然と比べると一目瞭然で少ない。顔色の悪さは相変わらずであり、辛そうに横になることもしばしば。かと思えばまた数日後に再び気分悪そうにして食事がとれなくなる。そんなことを繰り返していた。


「そうか」


俺はその後の人形の様子を副長に報告していた。
人形はとりあえず、年末の色々な書類整理で副長の秘書のようなものを務めるということで、まずは潜入捜査や外回りなどを外した。
実際この時期はテロへの警戒だけではなく、締めなければいけない書類が数多くあり、この処置について特に誰かから疑問がもたれることはなかった。

そのため人形はここ最近副長室で仕事をすることが多くなったが、驚くべきことがあった。

副長が!タバコを!やめた!

いやもちろん人形が居るときだけなんだけどね。
これに対しても監察方という役職がらか、体にタバコの匂いがつくことへの配慮と言うことで片づけられた。


「副長、失礼致す」


俺と副長だけのこの空間に呼ばれた黒ずくめの男。こいつは俺たちと同じ監察方の一員で、特に人形を慕ってついている人物の一人だ。人形とも仲が良い。


「おう。そこに座れ」


副長にうながされて用意された座布団に正座する。相変わらず頭巾と口布のせいで目しか見えないから表情が読めない。


「単刀直入に聞くぞ。お前、人形のことは知ってるか」


副長の鋭い眼光が男を射抜いた。男は軽く息をはき、そして鋭く射抜き返す。
え?ちょっと待ってなんか一触即発の空気になってるんですけどォ!?


「それは、長の体調不良の原因ということでござるか?」


疑問という名の肯定だった。監察方のこいつらも知っていたのだ。


「やっぱりテメェらも知ってたか」
「知っているも何も、長が最初に相談したのは我々でした故」


その一言に、少なからずショックを受けた。いくら頼りなくても一応相棒という立場なはずの俺には未だに一言も何も相談してくれない。なにそれ。

「知っていることを話せ」
「それはできかねまする」


副長の言葉を遮るように言われた男の一言に、副長のこめかみに筋が走る。


「これは、長の私生活に深く関わる話故。長が自ら話していないのであれば、我々から話すことは何もございませぬ。体調不良という事実があれば今はまだ十分でござろう」


副長に一切引けをとらずに堂々と話す男に、なぜかカッコよさを感じてしまった俺。なんか、忠義って感じ。


「我々が出来ることと言えば、長の望みが叶うよう最大限のサポートをすること。それだけでござる」

「では失礼致す」


その男はこれ以上何も話すことは無いとでも言うように音もなく退室した。


「……」


気まずい沈黙。
望み、かあ。そうなんだよ、色々と気になることはあるけれど、人形の望みが何かということなんだよ。


「山崎」
「ハイィィ!」
「近藤さんを呼べ」
「ま、まさか副長」
「これからのことを考えると判断を急いだ方がいい。報告するぞ」


副長の言っていることはもっともだけど、今までの人形の思いを知っているからこそ、複雑だ。本当に良いのだろうか。

でも俺が副長に逆らえるわけでもなく、俺は局長室に足を運んだ。





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