大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿33
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そしてあれよあれよと見合い当日。
早朝、むしろまだ深夜と言っても良い時間に人形は志村邸を訪れていた。
町は寝静まっているが、志村邸はすでに明かりがついており、住人が起きていることがわかる。
人形は意を決して中に足を踏み入れた。


「ごめんください」


時間が時間だけに少し遠慮ぎみに。それでも十分だったらしく、家の中から足音が慌ただしく近づいて来る。


「いらっしゃい人形さん」
「お妙さんお世話になります。これほんの気持ちですが」


開いた玄関から笑顔のお妙が出迎えた。人形は手にした風呂敷包みを手渡す。贈答用として有名な店のお菓子だ。


「あらすみません!みんなでありがたく頂きますね」
「みんな?」
「ええ。とにかく上がってくださいな。新ちゃんは銀さんの所に泊まらせたから遠慮しないで」


玄関から入ると土間に繋がる。そこにお妙の物としては多すぎるほどの女性物の草履が並んでいるのを人形は発見した。
一人しかいないはずの家の奥から、まさしく人形が苦手な部類の声が聞こえるのはなぜだろうか。


「さあみんな!人形さんが来たわ!気合い入れて男どもをブッ潰すわよ!」
「「「ハーイ!」」」


襖の奥には所狭しと着物や装飾品、メイク道具が並べられている。そして、おおよそ自分とは最も縁遠いきらびやかな人種、スナックすまいるが誇るギャバ嬢たちが元気よくお妙に応えた。


「話はお妙から聞いたわ!絶対一泡ふかせてやりましょう!」
「土台が良い分腕がなるわ」
「お金は気にしないでね。全部真選組にツケておくから!」


きゃいきゃいとはしゃぐ娘達。あれよあれよと椅子に座らされ、顔やら髪やら体やらを触られる。
その指の爪はきれいにデコレーションされており、人形は思わず自分の手に視線を落とした。
傷だらけの指だ。右の人差し指に至っては少し前に剥がれたため、今は生えかわりの不恰好な爪がおおっている。


「ごめんなさい。やっぱり私」
「人形さん」


お妙が人形の前に膝をつき、優しく手をとった。


「だめよ人形。自分を卑下してはだめ」
「お妙さん……」
「あなたがすまいるのキャバじゃなくて良かった。だってあなたとっても綺麗なんだもの」


お妙は力強く人形を見つめる。


「男にしか出来ないことがあるなら、女にしか出来ないこともあると思うの。女に生まれたんだもの。女の武器使って何が悪いの。思いっきり着飾って、男どもを侍らしてやりましょう」


そしてそのまま手を人形の耳に添え、内緒話の形をとる。


「『人形行かないでくれー!』っていう近藤さんの叫び声、聞きたくないかしら?」


いたずらっ子のように笑うお妙に、ようやく人形も笑みをもらした。
そして周りを囲むキャバ達を見やる。この子達もわざわざ赤の他人のためにこんな時間から力をつくそうとしているのだ。


「すまいるのみなさん。こんな早朝から私のためにありがとうございます。うんと綺麗にしてくださいね」


女の武器に対して腹をくくり、微笑む人形は女でも思わず見惚れるほど気高い。


「今日のお礼といってはなんですが、今度うちの組の男どもを侍らせてすまいるに行きますね。もちろん財布は空っぽにさせますから」


キャーそれ最っ高!
人形の晴れ晴れとした笑顔に、キャバ嬢達は気合いを入れた拳を大きく振り上げた。





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