大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿(17)
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「人形ちゃーん、ほら師匠だよ、ししょう。言ってみな、ししょう」
「かす」
「ちょ、カスって何カスって」
「てめぇがカスってことだよ」


畳を持ち上げてようやく地上の光を目にした。


「何、戻って来たの?つまんなーい」


山崎を筆頭に全員なんとか畳の下からはい出た。
近藤さんを中心に横一列に並ぶ。


「人形のお師匠殿!人形は我々真選組にはいなくてはならない存在!どうかこちらへ」


さっきまでの情けない姿は身を潜め、今はただ局長としてそこに佇む。
近藤さんの空気が変わったのがわかったのかおっさんも緩めていた顔を引き締め人形をしっかりと抱きしめ直した。


「出来ん。人形は私の意思を引き継ぐ唯一の者。私の刀だ」
「ならば条件はこちらも同じ!人形は忍でありながら誠の意思を引き継ぐ者だ!」


すげぇ気迫だ。
近藤さんが人形をそんな風に思ってたなんて。

俺は刀の柄を握っていた腕を離した。
さっきまでいたのはただの飲んだくれ。しかし今居るのは人形の師。
俺には、斬ることができない。

しかし近藤さんは体制を低く構え柄に手をかけた


「人形すまない。俺にはお前が必要だ。お前の師を斬る」


近藤さんが飛び掛かった。
俺が迷ったのは一瞬で、気がつけば刀を抜いていた。
あの人が抜くなら俺も抜く。


「近藤さんの後ろは任せて下せェ」


俺の横を総悟が抜ける。
俺はただ人形を奪還することに意識を持っていった。

3人係で刀を振り翳す。
しかしその刀はたった一点、交わった部分で羽で作られた団扇によって止められた。
右手で3本の刃を止め、左手でぐずる人形をあやす。


「やーん、かぁゆい〜」
「人形ちゃんちょっと待って!」


意識が人形に向いた瞬間近藤さんが団扇を弾き、切り返す。
脇があいた瞬間に総悟が踏み込む。
俺は刀の背中を人形を抱く左腕に叩き込む。


ガッ


固ぇっ!
タイヤ殴ったみたいな感触だ。

おっさんはそのまま後方に宙返りし、そのままの勢いで踏み込んでいた総悟の顎を蹴り上げた。
いつの間にか足には高下駄がはかれ、それで蹴られた総悟は片膝をつく。


「大丈夫か総悟!」
「やばいですぜィ近藤さん…ジャストミートでさァ。脳ミソが揺れてやがる」
「立つな小僧。死ぬぞ」
「うるせェよ、オッサン」


総悟は再び立ち上がり突っ込んだ。
俺も再び左を狙う。次は情けはかけねぇ。


「貴様らの所では人形は泣く」


高下駄が俺の柄を捉え、あいた腹に左の肘が叩き込まれた。


「ぐっ…!!!」


だが後ろ足で踏み止まり何とかそのまま叩き下ろす。


「よくやったぞ、トシ」


近藤さんの虎鉄が俺の腹に入ったままの左腕を捉えた。










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