大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿(5)
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「おい人形、巡回行くぞ」
「私監察方ですが」
「たまには違う仕事もしやがれ。行くぞ」
「私昨日帰ってきたばかりなんですが」
「そうか御苦労だった。行くぞ」
「嫌ですよ」


無理矢理人形の腕をとり立ち上がらせようとするが、人形は全身の力を脱力させて抗う。


「ヤダー!ヤダヤダ!」
「うるっせぇ行き遅れ!さっさと行くぞ」
「行き遅れって何ですか。私副長と同い年なんですけど」
「十分だろうがよ」


ずるずる
キー…キー…キー…


中々立ち上がらないので痺れを切らして人形の足を掴み引きずる。
人形は俯せで廊下の床板に爪をたてさらに抵抗した。


「行く!ぞ!往生!際の!悪い…っ」
「イ!ヤ!だ!」


お互い全力で対抗しているとふと通りかかった障子が開いて山崎が顔を出した。


「副長に人形何して」
「山崎ィ…助けてェ……助けてェェェ………」
「ギャアアアア!!!」


ピシャンッ


相棒に裏切られ眼前で無情にしめられた障子に、腕を伸ばしたまま人形は固まった。
まぁ、山崎の気持ちはよくわかる。
俺に引きずられた人形は長い髪の毛を床に散りばめ、その顔はすでに見えない。


「うっうっう…」
「行くぞー」


腕に顔を埋めて泣く人形の両足を抱えてパトカーが停めてある場所まで進んだ。


「うっうっう…」
「泣くな鬱陶しい。仕方ないだろ、近藤さんからの頼みなんだ」
「…局長?」
「ああ。近藤さんがお前を巡回に連れていくよう言ってたんだ」


そう言った瞬間煙と共に人形は消えた。


「おっせぇぞクソ方!さっさと乗れやゴルァ!!!」
「てめぇマジで殺すぞ!!!」


どこに逃げやがった!と焦ったのも一瞬。
やつはすでにパトカーの運転席に乗り込み、シートベルトをつけ、エンジンをふかしていた。










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