大江戸監察事件簿
□大江戸監察事件簿69
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数刻前。
人形は蒼き炎へと還っていった。
まるで魂を抜かれたようになった男たちは、各々の時間を過ごす。
あるものは武器を磨き、あるものは現実が受け止めきれずに放心していた。
近藤は自室で座り、只々座りこむ。
じっと何かに耐えるかのように。何かを考えるかのように。
「人形…ッ!!!」
目を閉じ、かの者を無くした喪失感と戦っていた。
土方の自室は荒れに荒れていた。
書類は散らばり、叩きつけた拳のせいで机は割れている。
自分の命の限界を知っていたという人形。しかし喜んで死んだわけではない。
一度、大きなミスを犯した時に泣いていた。死ぬのが怖いと泣いていた。
「どうして気づいてやれなかったんだ!!!」
信じられないほどの痛みと恐怖の中、耐えていた人形。
己のふがいなさを物にぶつけるしか、今の土方にできることはなかった。
人形が蒼き炎へと還っていった跡は燃え炭の一つも落ちていなかった。まるではなから何事もなかったかのようにいつも通りの色をした地面がある。
沖田は何もないその跡をじっと眺めていた。
そして空を見上げれば、月が照らしている。
「姉上」
自然と、大切な人を呼んでいた。
「人形が姉上と同じ所に逝けるかわかりやせん」
「ですが」
「どうか人形を」
「もう苦しまなくて良いところに導いてくだせェ」
「お願いでさァ」
空を見上げたまま目を閉じれば、端から何かが伝っていった。
やがて空が白み、赤く染まる。
朝がやってくる。
「行くぞ」
近藤の合図に、隊士の敬礼がそろう。皆、思うことは同じだった。
人形が繋いだ本懐を遂げる。
これは弔合戦だった。
「真選組全隊、出動だ」
戦人どもが出陣をする。
END