大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿52
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「人形、眠いのか?」
「ねむくないよ」
「嘘つけ。船こいでんぞ」


その後江戸のあちらこちらを回り、近藤さんと山崎によって散々甘やかされた人形は大興奮でその日をすごした。
食堂の夕飯にも舌鼓をうち、事情を聞いた隊士たちにたらい回しに可愛がられた。
探検と称して屯所内を回っていたが、俺の部屋に来ると落ち着いたようだ。


「おら、寝ちまう前に風呂入れ」
「わかったー」
「ほら早く風呂行け」
「おふろどこ?」
「ぐっ」


半眼で見上げられた。
確かに、初めての場所で風呂の位置も、中の様子もわからないだろう。約20年ほど若返っていることを考えると、シャワーの存在すら知らないかもしれない。

誰が、こいつを、風呂に、入れるんだ!

とりあえず人形を小脇に抱え上げて俺は控室に走った。


「山崎ィィィィ!!!」
「はい副長スミマセン!」


反射的に謝る山崎の前に人形を突き出す。


「コイツを風呂に入れろ」
「エェェェエエ!?無理!それは無理!」
「お前コイツの相棒だろーが!」
「殺される!もどった人形に俺が殺される!」


本気で拒否を示す山崎に舌打ちをする。周りの隊士にも同じように人形を突き出すが、同じような理由で全員が全力で拒否をする。

くそ、他に手はないのか。
人形の瞼が今にも落ちそうだ。


「只今戻りやしたー」


そこに気の抜ける声が聞こえて外回りに出ていた総悟が現れた。思わず人形を後ろ手に隠してしまった。


「土方さん、今なんか面白ェもん持ってませんでしたかィ?」
「なんのことかなー総悟くん」
「だれー?」


俺の努力もむなしく、手のひらを足場にして肩に手をかけて背伸びをした人形が総悟を確認した。


「その座敷童、もしかすると人形ですかィ?」
「人形は、人形だよ」
「へぇ」


笑った。総悟がそれはそれは良い玩具を見つけたという表情で笑った。


「人形ー。俺は総悟ってんでィ」
「そーごくん。人形だよ。よろしくー」
「よろしくー。手ェぷにぷにだな」
「そーごくんのて、ごつごつー」
「ぷにぷにー」
「ごつごつー」


俺を間に挟んだまま握手をする。


「そーごくん、人形おふろはいりたい」
「風呂?入りゃいいじゃねェか」
「そーごくんいっしょにはいろ」
「丁度俺もさっさと汗流したいと思ってたんでィ。ほら行くぞ」


そんなにあっさりィィィ!?
え?お前抵抗ないの!?

総悟が両手を伸ばすと、俺におぶさっていた人形は俺の背中をよじ登るとそのまま総悟の腕に収まった。


「そーごくん、あひるたいちょーいる?」
「さすがにいねェよ」
「えー」
「明日買ってやるから今日は我慢しなせェ」
「そーごくん、おーじさまみたいだね」
「なら人形はお姫様でさァ」
「…そーごくん、かっこいいね」
「なんでィ、いっちょまえに照れてやがるぜ」
「そーごくん、今日人形といっしょにねよ」
「大歓迎でさァ」


総悟の左腕に抱え上げられ二人はそのまま控室を後にした。


「って、沖田隊長ォォォオオ!?」
「よし、人形の風呂はなんとかなったな」
「副長ォォ!?いやダメでしょ!主に児ポとかそっちの面でダメでしょ!ってか、元に戻ったら沖田隊長殺されるわ!」
「…お前、本当にそう思うか?」


俺の一言で山崎はもとに戻った人形を想像したようだ。


(え?沖田隊長が私をお風呂に…っ!?)
(ス、スミマセン…ご迷惑を…)
(あの、あと、ありがとうございます…)


「殺されないよ!沖田隊長なら殺されないよ!俺だったら言い訳の一つもさせてもらえずに記憶抹消するレベルでボコボコだよ!何この格差社会!?」
「俺だったらロリコンの噂流されて社会的に抹消されるな」
「副長ォォオ!?自分で言ってて空しくなりませんか!?」


俺たちのくだらない言い争いは、無事に風呂に入った人形が再びテンションを上げて待機所に突入してくるまで続いたのであった。





END
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