大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿52
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「ほんとに?ほんとにたべていいの?」


甘味屋の椅子に腰かけ、膝の上におかれたみたらし団子を食い入るように見つめる。


「ああもちろん。焦らなくても誰もとらないから、ゆっくり食べるんだぞ!」
「あ、ありがとう…えっと」


人形は隣で甲斐甲斐しく世話をする近藤さんを見上げる。


「人形、その人は近藤さんだ」
「こんどーさん」
「ああ、俺は近藤勲って名前だよ」
「こんどーさん、ありがとぉ!」


トゥンク…


「可愛いいいい!ねえトシ今の見た!?人形ちゃんいっぱい団子食べてね!」
「人形−!!!もうこのままでいてー!!!」
「たべづらい」


叫ぶ近藤さんは店員に団子を注文する。反対側の隣に腰かけた山崎は人形に抱きついているが、そのため人形は団子をうまく口に運べないでいる。

べちょっ

「あ」

山崎が揺らすせいで、団子のたれが盛大に人形の頬につく。


「山崎、近藤さん、そのへんにしとけ。おら人形、じっとしてろ」
「ん」
「副長が、パパだ…パパ方だ…」
「誰がパパ方だ。死にてェか山崎」
「トシちょっと代わってくれ」
「アンタ悪化させるだけだろ」


人形は正面に膝着いた俺に大人しくおしぼりで顔を拭かれている。ビー玉みたいなでっけェ目ん玉が俺を見る。


「どうかしたか?」
「トシゆーの?」
「あー、まぁそうだな。俺はトシだ」
「トシ!ありがとー!」


やべぇ。普段が悲惨なだけに破壊力がやべぇ。


「おだんご、おいしー!」


未来のあの甘味に対する執着を彷彿とさせる食べっぷりだ。近藤さんが追加した分も人形はきれいに食べつくした。


「あらあら、うれしいねぇ」


あまりに見事な食べっぷりだったせいか、女将さんが鉄瓶をもって店から出てくる。


「隊士さんに、局長さんに、副長さんがそろってるなんて、どこぞのおひぃさまのお忍びかい?」


うまく答えが見つからない。


「おかみさん、おいしいよ!人形、こんなおいしいおだんご、はじめて!」
「まあなんて上手な子!こんなこと言われたらサービスしないわけにはいかないねぇ」


女将さんはクスクス笑うと、俺たちの湯呑にお茶を追加した。


「お嬢ちゃん、今度四日市に新商品のお披露目と特売があるんだよ。うんとサービスしてあげるから、また隊士さんたちに連れてきてもらいな」
「ん?」
「いっぱいお団子食べれるってことだよ」


人形はとたんに目を輝かせると俺たちを見回す。


「そうだな、四日市にまた来よう」
「こんどーさんほんとに?」
「ああ、約束だ」
「やくそく!ゆびきりげんまん!」


近藤さんの男らしい節だった小指に人形の小さな小指が絡む。


「おかみさんも、やくそく」
「約束だよ。たーんと、お団子作って待ってるからね」
「ゆびきりげんまん!」


幼児らしい声が歌を紡ぐ。


「それじゃあ、アタシは店にもどるよ。どこぞのおひぃ様のおかげで商売繁盛だからね」


女将の言葉に店の方を見てみれば、人形の食べっぷりにつられたのかそこそこの列ができており、店の主人が忙しそうに客をさばいていた。







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