大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿41
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「たでーまー」
「あ、銀さんお帰りなさい」


家にもどると新八が応接室の掃除をしていた。神楽は定春の上に寝そべっている。
俺はソファに座るともうすでに一度読んだジャンプを広げた。
新八が掃除機をかけるタイミングで足を上げる。何か怒っているが俺はジャンプの方が大事だ。


「銀ちゃんー私お腹すいたアルー」
「夕飯にはまだ早ぇぞー」
「定春ーお前はこんなマダオに育ったらダメアルヨ」


定春にしがみついて顔をこすりつける神楽に、定春が情けなく鼻を鳴らしている。


「お腹すいたアルお腹すいたアルお腹すいたアルー!」
「だーうっせぇな!!!そんなに腹へってんならババアの所に行け!」
「ババアはチャラついた飯だからいやアル」
「もー神楽ちゃんワガママ言わないの」


新八にも味方されない神楽は定春の上で手足をばたつかせている。やめろ、定春の毛が飛ぶだろ。


「お肉くわせろー!」


ひとしきり叫ぶが俺も新八も無視を決め込んだため、ようやく神楽も諦めたのか大の字に脱力した。






「うんぱったそわか」




あの気持ち悪い響きが聞こえ、耳を疑った。
ジャンプを投げ出して定春の上に寝転がる神楽をつかむ。


「おい神楽!今なんつった!」
「銀さんいきなりどうしたんですか?」


俺が突然大声をあげたのか、新八は掃除機のスイッチを止めた。


「何のことアルか?」


神楽はきょとんとした顔でこちらを見返す。


「今なんとかソワカつってただろ!」
「うんぱったそわかのことアルか?」
「それだ!お前それどこで聞いた!」
「どこって、公園で遊ぶガキどもみんな言ってるアルヨ」
「お前それ意味わかってんのか!?」
「おまじないって聞いたアル。みよちゃんはそれ言って告ったら成功したって言ってたヨ」


俺はゆっくりと神楽の肩から手を放した。
まさかこんな身内からあの気持ち悪ィ言葉を聞くこととなるとは夢にも思わなかった。しかも先ほど裏の世界との関わりを示唆したばかりだ。


「神楽、お前二度とそれ言うな」


とにかく落ち着こうと、俺はソファに座り直す。


「本当に、どうしたんですか銀さん」


俺の只ならぬ様子に新八が向かいに座る。


「いいか神楽」
「イヤアル」
「神楽!」
「イヤアルー!」
「ちょっと銀さん」


ピンポーン


こんな時に来客かよ。


ピンポンピンポンピンポーン


「銀時くーん。遊びましょー!」
「うっせぇなズラ!!!」
「ズラじゃない桂だ」


玄関まで走り扉を開ければ、見たくもない面とそのペットが当たり前のようにそこにいた。


「お邪魔しまーす」
「勝手に入んじゃねぇよ!」


そしてそのまま当たり前のように中に入ってくる。ペット、エリザベスはどこからか手ぬぐいを取り出して足の裏を拭いてから中に入った。無駄に常識あるな。


「あ!桂さんこんにちは!」
「うむ元気そうだな。ん?リーダーはどうした?」
「いやちょっと今銀さんに怒られて拗ねてるんですよ」
「すねてないアル…」


ヅラとエリザベスはソファに座る。新八はお茶を出すためだろうか、キッチンへと向かった。神楽は定春に顔を埋めたまま見向きもしない。


「いつまでも拗ねていてはせっかくの時間が無駄になってしまうだろう。さっさと機嫌を直したらどうだ?」
「別にすねてなんかないネ。銀ちゃんがいきなり怒ったアル」


神楽の言葉を聞いてヅラが不思議そうな顔でこちらを見た。そこにお茶を入れ直した新八がもどってくる。


「まあ確かにそうなんですけどね。神楽ちゃんがなんか言ったら銀さんがいきなり大声あげて」
「どうした銀時。お前らしくもない」


三人から見つめられ、もう面倒になった俺は親父、バイト、土方クンとの出来事を簡単に説明する羽目になった。


「確かに、ちょっと怖いですねそれ」
「銀ちゃん…ごめんなさい」
「俺も怒鳴っちまったからな悪かったな神楽」


俺の話を聞いた神楽がようやく定春から降りて俺の腰にしがみついた。俺は安心させるように神楽の頭をなでる。
ヅラは口に手を当てて何かを考え込んでいる。


「ヅラお前何か知らねぇか。あっちもこっちもなんたらソワカ。気持ち悪くて仕方ねぇ」


俺以上にアングラな世界に生きている男だ。俺は何かしら情報はないのか促してみる。
するとヅラではなくとなりのエリザベスがプラカードを掲げた。


『何かの真言ではないでしょうか?』
「真言?」
「うむ。俺も今それを考えていたところだ」


桂は顔を上げる。神妙な面持ちが俺を射抜いた。どうやら真面目に答えてくれるらしい。その顔に村塾時代の面影が重なる。


「『ウンパッタソワカ』。おそらくウンはオンのことであろう。帰命つまり命を捧げるということだ。そしてソワカは成就あれということだ」
「やっぱり願い事の成就っつーことか」
「そうだな。しかし気になることがある」


少し落とされたトーンに、神楽と新八が両隣から身をつめてきた。


「間に挟まれたパッタというものはわからん」

「しかし、もしそれが『ハッタ』が訛ったものであったとしたら、おまじないなどと言った可愛いものとは思えんな」

「ハッタとは敵を滅するための怒りなどの感情をしめす」

「ウンパッタソワカ、つまりオンハッタソワカ。それが意味することは」





「命を捧げて己の怨みを成就せよ」



新八と神楽の喉がひきつるのを感じ、とりあえず安心させるように両手で頭を引き寄せた。


「俺も調べてみよう」
「悪いな」
「いや、妙な信仰が流行って我々の目的を阻害されても困るからな」


そう言って立ち去るヅラとエリザベスを見送り、俺はその足で受話器を手に取った。


「あーもしもし万事屋銀ちゃんでーす。いや、今日は人形ちゃんじゃないのよ。おたくの副長さん出してくれる?あ?会議中?いやいや緊急だから。チョー緊急。例の件っていえば伝わるから」






END

初のミステリーテイスト。
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