大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿37
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珍しい、いや初めてのことと言えどそのまま何も咎めずにいることはできない。昨日は特に潜入なども入っておらず、普通に日中隊士としての仕事だけだったはずだ。しかも早番で上がり時間も早く、十分休息をとることは出来たはずだ。

俺は午前の書類仕事を終えると人形の自室を訪れた。


「おい人形入るぞ」


返事はない。


「おい、開けるぞ。いいな」


それでも返事はない。誰もいないのかとも思ったが、中だけは確認しておこう。
俺は一応断りを入れて襖を開けた。

そこには布団にくるまって眠る人形がいた。


「テメェまだ寝やがんのか!」


勢いよく掛布団をひっぺがす。それでも人形は寝続けている。
その表情の異常さに気がつき、俺は勢いよく人形を抱き起した。


「人形お前なんつー顔色してやがる」


青いを通り越して白い。まさに顔面蒼白だ。唇はいつもの朱色ではなく、ドス黒い。額に嫌な汗をかいている。


「おい、大丈夫か。しっかりしろ」


軽く揺らすと睫毛が震え、うっすらと瞼が開いた。


「ふくちょう?」
「どうした。何があった」
「大丈夫です、眠いだけで」
「眠いってお前、それだけの顔色じゃねェぞ。医者に」
「大丈夫、眠いだけだから…」


そう言って再び瞼を下す。
俺は人形を再び布団寝かせ、隊服を簡単にゆるめるとその上に掛布団をかけた。


「とりあえず今日は休め。それでも明日良くなってなかったら医者にかかれ。いいな」


すでに眠っているのか、返事はなかった。
来た時とは変わって俺はできるだけ音をたてないようにして部屋を出た。

自室にもどる前に山崎に様子を気にするように声かける。山崎自身、人形の異変は感じていたようで快く了承した。





気がつくと夜もふけ、今日の仕事をまとめ終わる。そういえば夕食もとっていなかったと俺は食堂に足を運んだ。
もはや夕食の時間帯は過ぎていたが、ここの女中は夕食の余った分で簡単な夜食を用意しておいてくれる。握り飯1つくらいはまだあるだろう。

食堂はすでに薄暗く、人気はない。夜食が置いてあるコーナーに行くと、予想通り握り飯が3つほど残っており、俺はそれらを全て手に取った。


「あ!副長!」


声をかけられ入口を見る。薄暗い中ではあるが、それが山崎であることはわかる。


「スミマセン副長。あの、おにぎり1つもらっていいですか?」
「ああ?お前は食っただろ。俺は夕飯食ってねェんだよ」
「いや、俺のじゃなくて人形の分なんです」


人形?


「まさか飯食ってねェのか」
「朝もお昼も夕ご飯も拒否しちゃってるんですよ。人形おにぎり好きだから、これだったら食べるかなって思って」


山崎の報告に俺は血の気が引いた。体が丈夫なだけが取り柄の人形が一日休んでも回復しない。それも食事まで拒否して。


「行くぞ山崎」
「あ!ハイ!」







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