大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿34
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その日の夜、真選組屯所控室。


「行くな人形〜」
「うわあああ頼むから行かないでくれー!」
「もし結婚してここを出ていったら、俺はこれから何をオカズに生きればいいんだあああ」
「人形〜」


転がる酒瓶。屈強な男ども。涙に濡れる座布団。


「長がここを離れるというならば」
「うむ。辞世の句を読むといたそう」


何かを書き始める黒ずくめの集団。


「責任とってもらいやすぜ土方のクソヤロー」


刀を磨く者。


「…………」「…………」


廃人と化しているこの組織の2トップ。

まさに控室は阿鼻叫喚と化していた。


パァンッ


「何だコイツァ〜?誰か死んだかぁ?」
「「「「「とっつぁん!!!」」」」」


襖が破られて松平が登場する。顔面の汚さもそのままに男達は顔をあげた。
そこにひょこりと、松平の後ろから人形が顔を出す。

人形ー!!!
野太い声が響き渡った。近藤と土方はふらりと、立ち上がった。


「「み、見合いは…」」
「みなさん今までお世話になりました」


……………
時が止まった。見事に。
そして次の瞬間。


「うおおおお死ぬうううう!!!」
「人形が人妻にー!」
「それもエロいけどやっぱイヤだああああ!!!」


さらに地獄と化した。


「「人形ー!!!」」
「ぐふっ」


お腹に衝撃が走り、そこをみやると近藤と土方が人形のお腹にしがみついている。


「うおおおおん俺が悪かった人形ー!頼むからいかないでくれええええ!!!」
「ほんっとうにすまねェ人形!詫びに何でもする!だから考え直してくれ!!!」


ぴろりん


場にそぐわない電子音が響く。


「今までお世話になりました。お見合いはもちろん断りました。これからもよろしくお願いします」


先ほどまでの醜態をおさめた携帯を懐にしまい、人形はカラカラと笑った。


うおおおおおお!!!!
これ以上大きくなるのかという雄叫びに、人形は苦笑する。
お妙との計画は成功も成功、大成功となった。もちろん動画は、のちほどお妙と月詠の二人に送りつけるつもりである。

場はそのまま宴会へと突入した。松平も当たり前に参加し、隊士達は上機嫌で酒をあおる。


「おい人形ちょっと腕見せてみろ」
「腕?」


すでに酔っぱらいと化し、上半身裸の二人組が人形に絡む。
隊士達は人形の腕を引っ張ると袖を捲りあげ、左右に自分の腕をそれぞれ並べた。


「ほれ見ろ!俺の方がでかいー」
「俺もでかいーまだまだだな人形」


それが腕の太さなどではなく、そこに走る裂傷の大きさなのだとわかる。

人形は右腕に走る傷跡をもう一度眺めた。
これは自分が組に入隊して間もない頃、初の討ち入りの時に受けた傷だ。


『正念場だ!気張れよ人形!』


左腕の火傷跡。これは山崎達を逃がすために囮となって捕縛された時に受けたものだ。


『よくぞもどった人形!』


そう。
自分達にとって体の節々についた傷は決して恥ずかしいものなどではない。

国を、仲間を、そして愛する人を守った証なのだ。


「うるさい!もっと格好良い傷跡あるわ!」
「見せろ見せろー!」
「まあ人形、俺のこの創痕の美しさには叶うまい」
「いやいや俺の」
「だから私が1番!見てみろ!」
「ちょ、人形今の格好考えてェェェェ!!!」


「これは副長が私をキズモノにした時の」
「オイィィィィ!誤解を招くような言い方はよせ!」
「なら人形、今から俺がつけてやりまさァ」
「総悟お前は黙ってろ!」


「ごめんねえええ人形ちゃあああんんんん!!!」
「局長おおあおお!私が局長置いて行くと思いますか!?」
「うおおおおおん!!!」



後日、人形は約束通り男達を何人も侍らせてすまいるを訪れた。
もちろんその中には組織の2トップ、そしてさらに上官にあたる松平の姿もあった。
そして宣言通り財布を空にした(させられた)男達であったが、人形はそれ以上に派手に金を落とし、一夜にしてすまいるの伝説となるのである。




END
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