大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿34
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その後二人は何か話すでもなく、それなりの距離をとって歩いていた。
先ほどの庭園から抜けた場所は一般にも開放されている所で、多くの観光客らしき天人がカメラを片手に記念撮影をしている。


(そろそろ、戻った方が良いよなあ)


人形がご令嬢としての夢をぶち壊したためか、その後何の反応もない男に仕方なく人形はもとの会場に戻ることを切り出すことにした。
しかし、男の方を振り向こうとしたその思いは叶わなかった。

気づけば人形は男に抱き締められていた。


「正直、戸惑いました」


その言葉同様、話す男の声色にもまだ戸惑いが感じられた。


「こんなに綺麗なあなたなのに、不釣り合いな傷があんなにもあって」

「でも、だからこそ、あなたの人生を僕に預けていただけませんか?」


驚いた。あれほどの傷跡を見てもこの男は引かなかったようである。


「あなたに、女性としての幸せをさしあげたいんです…」


そのまましばらくの時がすぎた。
人形は祝言をあげ、子どもを抱く自分を想像してみる。想像の中の自分は優しそうに微笑んでいる。


「ひったくりよ!!!」


突如聞こえた声に思考を中断され、人形は弾かれたように顔をあげた。
大勢の人混みの中から二人、男が猛烈な勢いで走ってくるのが見える。


「人形さん危ない!」


抱き締められた体をそのまま引かれるが、人形は身を捩ってその抱擁から抜け出した。


(月詠ごめん…っ!)


咄嗟に謝り、髪をまとめる簪を引き抜く。そのまま走ってくる男の一人の足元にいつもの要領で投げつける。


「ぐあっ!」


簪は狙いどおり男の右太腿に突き刺さり、男は派手に倒れた。


「くそっ!どけ女ァァァ!!!」


もう一人の男は倒れた男を見捨てたようだ。そのまま直進してきたため、人形は体を捻りながら突進を受けると、そのまま男の腕を掴み地面に投げつけた。
すぐさま男を腹這いにして腕を捩りあげた。


「真選組だ!現行犯逮捕する!」


オー!ゲイシャー!ニンジャー!
まるで大衆演劇を見ているかのような鮮やかや逮捕劇に、特に天人の観光客から一際大きな歓声が湧いた。

地に伏した男はその後すぐに引き渡された。ただのひったくりであったため、所轄の岡っ引きに見るも無惨な姿で連れていかれる。


「すみません、バタバタと」
「いえ構いません」


諸々の手続きをすませ、人形はようやく見合い相手の所へと戻った。
すっかり髪やら着物やらは乱れている。この調子では化粧も散々なことになっているのだろう。


「あそこが、あなたの生きる場所なんですね」


男は変わらない笑みを浮かべていた。


「あなたは真選組に居た方が良い。それが国のため、そして何よりあなたのためです」


男はもう一度人形の手をとった。


「僕も、もっと宇宙を回って沢山勉強します。会社をもっと大きくします」
「いつか、あなたの身に何か起こったときには迷わず声をかけてください」
「僕は僕のやり方であなたを守ります」


さっきの逮捕劇、格好良かったです。
笑った男に、人形も飾らない笑顔を返した。






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